どちらとの恋を選びますか?【前編】~元彼vs同期の秘めたる愛の行方
 陽先輩の怒った顔…
 思い出した…
 付き合っていた頃、1度だけ、陽先輩が私に怒ったことがあった。

 バイトの時、熱があったけど、スタッフの人数が少ない日で、無理して出勤した。
 皆に分からないように、仕事をしてたけど、陽先輩だけは気が付いて、
 「咲羅、ちょっと」
 控え室に連れて行かれて、額に手を当てた。

 「やっぱり…もう帰れ」
 「でも…今日の人数じゃ…」
 「帰れ!そんな体で仕事するな!」

 今まで陽先輩に怒られたことが無かった私は、初めての陽先輩の姿に戸惑った。

 「そんな言い方しなくても…」
 「心配で俺が仕事出来ない。それなら、俺が咲羅の分まで仕事する方が、よっぽどましだ」
 愛おしむように私の頭を撫でる。
 「分かったら、早く帰って寝ろ」

 このまま仕事して、陽先輩達に、かえって迷惑かけるかもしれないし…
 陽先輩の優しさに甘えて、頷いた。

 「そうだ。風邪は誰かに移したら、治るっていうからな」
 「えっと…それは」
 「そう、信じろ」
 顎に手が掛かると、舌を絡み取られるキスに、風邪の熱と、ドキドキの熱が相乗して、頭がクラクラしてきた。
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