美術室で桜が散る
 高校生活?青春?たまったもんじゃない。そういうのは一部の人間にしかできない。俺たちみたいな陰の人種は、そんな奴らを指をくわえてみているしかないのだ。
 卑屈だと思われるかもしれないが、逆に目立った行動をしようものなら陽の人種に抹消されるのがオチである。俺はそんな哀れな人種になりたくない。
 だからここまで空気になるよう努めてきた。自分に拍手でもしたいところだ。
 そんなどうでもいいことを考えて、なんとか寝起きの頭を起こしていると、学校へ到着した。
 校門を見た瞬間、一気に家が恋しくなってきた。帰りたいという感情だけが頭を支配する。なんで来てしまったんだ、と後悔する。
 嫌々下駄箱から上靴をとり、地面にたたきつけるように落とす。片方が反発するように靴底を向ける。もうそれにめんどくさいとか、腹が立つとか、しょうもない感情を抱くことすらできなくなった。
 ひんやりとした廊下のタイルが体温を奪っていく。つま先で靴を地面に向かせ、足をねじ込む。かかとをつっかえながら、果てしないこの無機質な道を歩く。
 馬鹿みたいに長い階段を上り、教室に到着した。
 キイキイときしむドアを開けると、ムワッとした、いかにも人間が吐き出したような空気が体にまとわりついてくる。その不快感に思わず眉を顰める。
 自分の席を探すと、すでに赤の他人が占領していた。後ろの席の奴としゃべっている。
 人間は視界が狭いから、自分こそが一番だという錯覚を起こしがちだ。その典型例といってもよろしい。
 少々ためらいながら自席へ近づく。心底嫌だが、一応自己主張をしておかねば、この背中の重りを抱えて教室の入り口に突っ立っているか、学校を徘徊しなければならない。
 「あの…」
 「んだよ」
 ああ、声をかけるんじゃなかった。
 声をかけられた奴は鋭い視線をこちらに向ける。先ほどまで自分が持っていた楽しい時間を、こんな根暗な弱者にとられることにご立腹のようだ。
 「そこ、おれの席…」
 「は?何?」
 聞こえてないようだ。
 「いや、だから…そこ、おれの席。どいて。」
 「…あっそ」
 ため息をついて相手が椅子から立ち上がり、だるそうに自席へ戻っていった。安堵のため息をつく。
 俺は急いで机に座り、無駄に重い鞄を置いて、教材を机にしまっていった。 
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