美術室で桜が散る
 やっとの思いで四限目の授業を終え、昼食時間に入る。
 俺には友人なんぞ一人もいないので、だんだんと群れの出来上がっていく教室をそそくさと立ち去る。大体、大人数で昼食を食べる意味が分からない。飯の味はおろか、会話すらもまともにならなそうだ。
 学校をぶらつき、どこか人気のない場所を探す。幸いなことに、教室から離れた理科準備室が空いていた。急いで中に入りドアを閉め、少々きしむ椅子に腰かける。
 薬品のにおいが充満し、掃除を怠けているのか、とても埃っぽかった。窓を全開にし、しばらく換気をしていると、目が自然と校庭に移った。誰もいないため、余計に広く感じる。
 空気が完全に入れ替わるまでは、まだ時間がかかりそうだ。しばらく外を眺める。頬にあたる風がなかなか心地よい。
 目を細めてしばらくぼーっとしていると、不意に校庭の端の木に目がいった。
 なにやら木のてっぺんに何かがいるようだ。よく目を凝らしてみると、それは白色だった。いや、白色だけじゃなくて、ミルクティー色も混ざっている。それだけじゃない、紺色もあるし…。
 「もしかして…人?」
 ありえない。あの木は校舎の二階ほどの背丈、つまり最低でも五メートルはあるし、そもそも今は昼食中である。
 疲れてるのかもな、俺。
 そう思って目をそらそうとした、その時。
 ゴオオ、と強風が室内を駆け抜けた。それとほぼ同時に、どこかで悲鳴が上がった、気がする。冷や汗が背中を伝う。机上の昆虫図鑑が、パタパタとページをめくっている。
 再度窓から身を乗り出して、木の上の何かを確認する。どうやらまだそこにいるようだ。心なしか、不安げにしがみついているように見える。
 「…見てらんないよ」
 そうつぶやくと俺の足は、自然と校庭へ向かっていた。


同刻 ???視点
 待ちに待った昼休み、二年の教室が何だか騒がしい。まあ、あの先輩がいるから、そう不思議なことではないけれど。
 イツ面で昼飯を屋上で食べよう、という話になり、廊下を歩いていたその時。
 「…っ、ごめん!!」
 正面から何かが走ってきて、腕をかすった。目に留まらぬ速さだった。
 思わず振り返る。数メートル先に、走っている男子生徒の後ろ姿が見えた。
 「…びっくりした」
 自分でも驚くほど間抜けな声でそうつぶやいていた。その声を合図に、その場にいた生徒たちが口々にそれぞれの感想を吐露した。
 「めっちゃ急いでたよなー、便所?」
 「だれだよあいつ、見えなかったんですけど」
 「お前も大丈夫か?結構ぶつかったっぽいけど」
 「いや…ただかすっただけ。それより行こうぜ、腹減った」
 今度見つけたらサッカー部に勧誘しよう。
 そう考えていたが、昼食を食べ終えるころには、俺も、その周りも、すっかり忘れてしまっていた。
 
 
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