硝子星ー友達が俺の親友を溺愛してくる。ー【完】
「水瀬、高校はどうするん?」
昼休み、俺の前の席に、俺の方を向いて座って御堂心――心どう(みどう)が言った。
俺の机にノートや教科書を広げて、午前中の授業で出た宿題をしているところだった。
「とりあえず徒歩圏内。満員電車とかやだ」
「あー、っぽいね」
「心どうは?」
「私も徒歩圏内がいいなー。店番したいし」
心どうの実家である『心どう茶屋』は、神成(かのう)神社という、神社の参道にあるお茶屋さんだ。
心どうの祖父母がやっていて、心どう自身も看板娘として店に立っている。
「だよなー。んじゃ同じとこ目指すか」
「あー、いいねー」
話の内容はだらだらと、そしてのんびりと過ぎていく俺と心どうの周りの時間。
心どうに対して同性異性は関係ないと感じている。
俺は心どうをひとりの人間として見ているし、そして気が合うと思っている。
心どうから俺がどう見えているか、言葉にして聞いたことはないけれど、恋愛感情は発生していないことはわかる。その理由は……
「御堂―、水瀬―」
廊下に繋がる壁をくりぬいた窓から身を乗り出してきた、通称『最恐副会長』が、心どうにとってその対象だからだ。
「……なに」
心どうの言葉はぶっきら棒で悪態をつく感じだが、耳がかすかに赤く染まっているのが見える。
つまりこの、『最恐副会長』こと遠野龍が、我が親友の片想いのお相手、というわけだ。
ああ、誤解しないでほしいんだけど、俺は強がりで心どうに気がない、なんて言っているわけではない。
単に俺が自分の恋愛に興味がなくて、恋愛する気のない現代の若者なだけだ。
「資料作り手伝ってくんね?」
人の好さそうな顔で頼んでくる遠野。
はっきり言って遠野は、うちの学校ではぶっちぎりで見た目がいい。クラスの女子によると爽やか系らしい。
蛇足だが、俺は目つきが悪い。
「……また会長行方不明なの?」