ポケット
驚きから早口になってしまう美桃とは真反対に、颯星はゆっくりと緊張した様子で話す。

『それ、婚約指輪。美桃と結婚したいって思って半年前に買ったんだ』

「半年前……」

ちょうど触れられなくなった時期だ。美桃はこれを逃したら機会はないと思い、気になっていることを訊ねる。

「私でいいの?ずっと颯星、私に触れてこなかったじゃない。私に飽きたんじゃないの?」

『違う!絶対にそんなことありえない!』

大きな声で颯星は否定する。その声量に美桃は驚いた。彼のそんな大きな声を聞いたのは初めてのことだったためである。

『……俺の先輩でさ、仕事が楽しいって言ってた人がいるんだ。女性の先輩なんだけど。先輩は計画的に物事を進めたいタイプの人でさ、自分の人生のこともしっかり計画立ててたんだよ。いつ結婚するとか、いつ子ども産むとか。でも先輩、計画ではまだ先のはずだったのに妊娠してしまったんだ。結婚式は子どもが産まれてからになってしまったし、新婚旅行だって海外に行きたいって話してたのに行けなくなったんだ』
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