10年後、思い出したくなる物語
「アイツ今でこそ帰宅部みたいな感じだけど、中学の時はサッカー部だったんだよ」
静かな放課後の校舎に、末次先輩の低い声が響く。
「サッカー部…」
「ユースの練習とかも参加してたんだけど。まぁ色々あって今はあの通り」
「そうなんですね」
「あんまペラペラ喋ると怒られるから内緒ね」
普段の言動を見ているととてもスポーツに打ち込むタイプには見えないけれど、意外な過去があるんだな。
「じゃあ僕は職員室に鍵を返してから帰るから」
下駄箱まで来て末次先輩がそう言った。
「あっ…おつかれさまでした」
私がペコッと頭を下げると、末次先輩の右手が頭の上にポンっと乗った。
「おつかれ」
末次先輩は優しく笑って歩いてきた廊下を戻っていく。
職員室は逆方向なのに、ここまで来てくれたんだ。
優しい。沢崎くんとは大違いだ。
けど、その沢崎くんと末次先輩、同じ中学だったなんて。
どおりで親しいわけだ。
私はスニーカーに履き替えると駅までの道をボーッと歩いた。
“彼氏いたことないでしょ”
ふと沢崎くんに言われたことを思い出す。
そんなこと、いちいち言わなくていいのに。
駅に着いて、頭の中を掻き消すように、残っていた水筒のお茶を一気に飲み干した。