10年後、思い出したくなる物語
体育祭まで1ヶ月を切ると週1で行われていた委員会は、週2の頻度で行われることになった。
「わー。みんな練習してるー」
窓際の席に座って、グラウンドを眺めながら沢崎くんがわざとらしく棒読みで言った。
「私たちと違って真剣なんだよ。青春を満喫しないとだから」
私がポツリとそう返すと、沢崎くんがブッと笑った。
「国枝さんってさー、いい子そうな顔して性格悪いよねぇ」
「沢崎くんに言われたくないんですけど」
「俺は猫かぶってないから」
むかっ。
私は机の上に置いていたハンカチを結んで沢崎くんに投げた。
「こわー」
ケラケラ笑う沢崎くん。
いつの間にかハンカチを投げつける程には仲良くなってしまった。
事あるごとにからかわれているだけなんだけれど。
「ハイハイ。2人ともそこまで」
いつも止めてくれるのは末次先輩だ。
末次先輩は沢崎くんからハンカチを回収すると、私に返してくれた。
「はい国枝さん」
「あ…ありがとうございます」
ハンカチを投げつけるところを見られて少し恥ずかしくなった。
「沢崎。国枝さんと家庭科室行ってコレ綺麗にしてきて」
先輩が差し出したカゴの中には大きな布が入っていた。
「何すか?これ」
沢崎くんがカゴを覗きながらそう聞くと、
末次先輩がニコニコ微笑んで「校旗だよ」と言った。