10年後、思い出したくなる物語
「ふっ。すげー落ちてんだけど」

何事もなかったようにプログラムを拾い集める沢崎くんとは対照的に、慌てて無言で拾う私はなんだか滑稽だ。

「ご、ごめん。ちょっとびっくりして」

「俺のせい?」

「まぁ…。女の子に気軽に触るのはどうかと」

何の意味も悪気も無いのは分かっている。

分かってはいるけど。

「国枝さんて彼氏とか居たことないでしょ」

「え?」

「まぁそうだよなー。真面目そうだし」

悪気…無いのか??
ちょっと、小馬鹿にされている気がした。


「なにそれ、私だって恋愛のひとつやふたつ」

「そうなの?今、彼氏いるってこと?」

試すような視線を送ってくる沢崎くん。
私は全て拾い終わったプログラムを抱えて立ち上がった。


確かに、彼氏なんていたことない。
誰かのこと好きだとかも思ったことないのに。


「いない。でも好きな人くらい、居ます」

何に対抗しているのかわからないけど、気付いたらそう口走っていて、目の前の沢崎くんは楽しそうに「へ~、それはそれは」と何故か笑っていた。



「先に視聴覚室行ってる」


私は逃げるように印刷室を後にした。


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