君との恋のエトセトラ
第二十二章 クリぼっち?
「ただ今戻りました」
「お帰りー、って、凛ちゃん?どうしたの?その顔」

航と二人でMoonlightから戻った凛は、オフィスに入った途端、皆の注目を浴びる。

「えっと、Moonlightでメイクのワンポイントレッスンの動画撮影をしていまして…。実験台になってきました」
「そうなんだ!いやー、見違えたね。メイクだけでこんなに変わるなんて」
「そうですよね、プロの技って凄いです。あはは…」

苦笑いでごまかしながら、凛はチラリと壁の時計を見た。

(定時まであと10分。もう着替えないでこのままやり過ごすしかないか)

紺のロングコートの下は、Moonlightで着替えた黒のワンピースのままだった。

「経費で購入した物だから、どうぞそのまま着て帰って」と梅田に言われ、時間も迫っていたことから、凛はコートだけを羽織ってオフィスに戻ってきた。

たかが10分、されど10分。

コートを脱がずにデスクに向かう凛に、どうしたの?寒いの?と皆は声をかける。

「いえ、大丈夫です。お構いなく…」

時計とにらめっこしながら笑顔でやり過ごし、17時になった途端に席を立った。

「それでは、お先に失礼させて頂きます」
「お疲れー、凛ちゃん」

皆が口々に凛を見送っていると、戸田がコロコローッと勢い良く椅子を滑らせながら航に近づいた。

「ね、河合さん」
「なんだ?」
「凛ちゃんって、彼氏出来たんですかね?」
「は?そんなの知らん」
「だってあんなに可愛くメイクして、髪もアップにして。しかもそそくさと帰るし。絶対今夜はデートですよ。あーあ、相手はどんな男なんだろ」

戸田は頭の後ろで両手を組み、椅子を左右にユラユラと回転させる。

「やっぱり早く告白すれば良かったな。どうしよう、凛ちゃん今夜プロポーズされたら」

航は訝しげに戸田に顔を向ける。

「なんでそんなに今夜今夜って強調するんだ?」
「それはだって、今夜は恋人達にとって最高にロマンチックな日ですから。はあ、クリぼっちはヤダな。河合さん、一緒に飲みに行きません?」
「いや。俺、夕飯は家に帰って食べる…って、クリぼっち?!」
「どうしたんですか?そんな大声出して。河合さんも予定ないんですね。クリぼっち同士、飲みに行きましょうよー」
「悪い、俺、急ぐから。じゃあな!クリぼっち」
「ちょっと!俺、そんな名前じゃないですからね!」

戸田の声を振り切り、航は鞄を手に部屋を飛び出した。
< 113 / 168 >

この作品をシェア

pagetop