君との恋のエトセトラ
「え、これ畳んでたのは確か8時頃だったのに。今何時ですか?」
「もう日付が変わったよ。12時過ぎてる」
「ええー?!大変!すぐに帰りますね」
「それなら送って行くよ」
「いえいえ、そんな。河合さんお疲れなんですから、もう休んでください」
「いやいや、こっちこそ。こんな時間に女の子を一人で帰らせるなんてあり得ない」
「すぐ近所ですから。これ以上河合さんのお手を煩わせる訳にはいきませんし。それでは失礼します」
「こら、凛!」
航は凛の腕を取ると、そのまま胸に抱き寄せた。
「捕まえた。もう逃さない」
え…と凛が胸元で小さく呟く。
「すぐに無理をしようとする。いいか?ちゃんと大人の言うことを聞くんだぞ?」
「そんな。私、子どもじゃありませんから」
「いいや。どんなに言っても無茶なことをしようとする。言うことを聞かないのは子どもな証拠だぞ?」
顔を覗き込むと、凛は一瞬視線を上げてからまたうつむいた。
「河合さん」
「ん?」
「ごめんなさい」
「え?何が?」
「この間のこと。私、河合さんに失礼な態度を取ってしまって…」
は?と航は首をひねる。
「えっと、一体何のこと?」
「ですから、あの。先月河合さん、私に付き添って長崎に行ってくれて。そのせいで成績が…」
「ああ!飲み会の時ね。気にしてくれてたの?それなら俺こそ悪かった。ごめん、気を悪くさせたね」
「いいえ!違います。あんなことを言った私に非があります。私なんかよりも、うんと大人の河合さんに失礼な言葉を。本当にすみませんでした。私のことを子どもだっておっしゃるのはごもっともです」
腕の中で縮こまる凛に、航は小さく息をつく。
「違うよ、そんな意味で言ったんじゃない。君は本当にしっかり者だ。仕事もきちんとこなすし、周りにも気を配ってくれる。お母さんや杏ちゃんの為に、懸命に頑張ってる。俺はそんな君を尊敬しているよ」
「河合さん…」
凛がおずおずと顔を上げた。
「けど、いかんせん無理をしすぎる。自分の体調が悪いのにも気づかないで、根を詰めてしまう。俺はそれが心配でたまらないんだ。誰かがそばにいて、君を守っていないと。これからは木原がそばにいてくれるんだろ?ちゃんと木原の言葉を聞くんだよ?」
次の瞬間、大きく見開いた凛の瞳からポタポタと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ど、どうしたの?!」
航は慌てて凛の顔を覗き込む。
「なんで急に、一体何が…?」
「河合さん」
「えっ、何?」
「なぜそんなことを言うの?」
「そ、そんなことって?」
「なぜ木原さんの言葉を聞けって言うの?」
「それはだって、君の身体が心配だから。無茶をしないように、そばにいるあいつが君に…」
「私がそばにいて欲しいのは木原さんじゃありません!」
「えっ…」
涙で潤んだ瞳できっぱりと告げられ、航は思わず言葉を失う。
「私がそばにいて欲しいのは、今まで私を支え続けてくれた人です。困っている私に手を差し伸べてくれた優しい人。私の作った料理を、いつも美味しいって食べてくれる人。寝込んだ私を心配して、付きっ切りで看病してくれた人。母が倒れた時に、すぐに私を長崎まで連れて帰ってくれた人。思い出すだけで、私の心を切なくさせる人。今も…、私を抱きしめて守ってくれている、あなたです」
「凛…」
航は胸の奥がジンとするのを感じて、凛の頭をぐっと胸に抱き寄せた。
「初めて言ってくれた。今までどんなに心配しても、俺の手からすり抜けてしまったのに。どんなにこの手で守りたいと思っても、背中を向けられてしまったのに。そばにいて欲しいって、やっと俺を頼ってくれた」
喜びで胸を震わせながら、凛を強く抱きしめて耳元でささやく。
「知ってる?俺がどんなに君に癒やしてもらったか。どんなに仕事で助けられたか。どんなに幸せな気持ちにさせてもらったか。そしてどんなに…。俺がどんなに君を愛しているか」
凛は航を見上げて新たな涙を流す。
その涙を、航はそっと親指で拭った。
「凛。優しくて強くて、子どもだけど大人で。可愛いけど美しい。そんな君が、俺は大好きだよ」
「私もです。どんな時も何があっても、いつも私を励ましてくれる、頼もしくて優しいあなたが大好きです。私の幸せは、あなたと一緒にいることなの」
「俺もだよ。どんな時も君のそばにいる。必ず君を幸せにする。これからもずっと一緒にいよう。凛、俺と結婚してくれる?」
凛は涙を溜めた綺麗な瞳で航を見上げ、微笑みながら頷いた。
「はい。あなたと結婚させてください」
航も優しく凛に微笑む。
「ありがとう。一生君を大切にするよ」
「私も。あなたを一生想い続けます」
やがて航の大きな右の手のひらが凛の左頬を包み、凛の顔をそっと上に向ける。
切なげに揺れる瞳に見つめられ、航は愛おしさで胸を一杯にさせながら、優しく愛を捧げるように凛の柔らかな唇にキスをした。
温かく幸せな気持ちで胸がしびれる。
必ずこの手で凛を守っていく。
もう二度と離さない。
そう心に固く誓い、再び航は凛を強く胸に抱きしめた。
「もう日付が変わったよ。12時過ぎてる」
「ええー?!大変!すぐに帰りますね」
「それなら送って行くよ」
「いえいえ、そんな。河合さんお疲れなんですから、もう休んでください」
「いやいや、こっちこそ。こんな時間に女の子を一人で帰らせるなんてあり得ない」
「すぐ近所ですから。これ以上河合さんのお手を煩わせる訳にはいきませんし。それでは失礼します」
「こら、凛!」
航は凛の腕を取ると、そのまま胸に抱き寄せた。
「捕まえた。もう逃さない」
え…と凛が胸元で小さく呟く。
「すぐに無理をしようとする。いいか?ちゃんと大人の言うことを聞くんだぞ?」
「そんな。私、子どもじゃありませんから」
「いいや。どんなに言っても無茶なことをしようとする。言うことを聞かないのは子どもな証拠だぞ?」
顔を覗き込むと、凛は一瞬視線を上げてからまたうつむいた。
「河合さん」
「ん?」
「ごめんなさい」
「え?何が?」
「この間のこと。私、河合さんに失礼な態度を取ってしまって…」
は?と航は首をひねる。
「えっと、一体何のこと?」
「ですから、あの。先月河合さん、私に付き添って長崎に行ってくれて。そのせいで成績が…」
「ああ!飲み会の時ね。気にしてくれてたの?それなら俺こそ悪かった。ごめん、気を悪くさせたね」
「いいえ!違います。あんなことを言った私に非があります。私なんかよりも、うんと大人の河合さんに失礼な言葉を。本当にすみませんでした。私のことを子どもだっておっしゃるのはごもっともです」
腕の中で縮こまる凛に、航は小さく息をつく。
「違うよ、そんな意味で言ったんじゃない。君は本当にしっかり者だ。仕事もきちんとこなすし、周りにも気を配ってくれる。お母さんや杏ちゃんの為に、懸命に頑張ってる。俺はそんな君を尊敬しているよ」
「河合さん…」
凛がおずおずと顔を上げた。
「けど、いかんせん無理をしすぎる。自分の体調が悪いのにも気づかないで、根を詰めてしまう。俺はそれが心配でたまらないんだ。誰かがそばにいて、君を守っていないと。これからは木原がそばにいてくれるんだろ?ちゃんと木原の言葉を聞くんだよ?」
次の瞬間、大きく見開いた凛の瞳からポタポタと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ど、どうしたの?!」
航は慌てて凛の顔を覗き込む。
「なんで急に、一体何が…?」
「河合さん」
「えっ、何?」
「なぜそんなことを言うの?」
「そ、そんなことって?」
「なぜ木原さんの言葉を聞けって言うの?」
「それはだって、君の身体が心配だから。無茶をしないように、そばにいるあいつが君に…」
「私がそばにいて欲しいのは木原さんじゃありません!」
「えっ…」
涙で潤んだ瞳できっぱりと告げられ、航は思わず言葉を失う。
「私がそばにいて欲しいのは、今まで私を支え続けてくれた人です。困っている私に手を差し伸べてくれた優しい人。私の作った料理を、いつも美味しいって食べてくれる人。寝込んだ私を心配して、付きっ切りで看病してくれた人。母が倒れた時に、すぐに私を長崎まで連れて帰ってくれた人。思い出すだけで、私の心を切なくさせる人。今も…、私を抱きしめて守ってくれている、あなたです」
「凛…」
航は胸の奥がジンとするのを感じて、凛の頭をぐっと胸に抱き寄せた。
「初めて言ってくれた。今までどんなに心配しても、俺の手からすり抜けてしまったのに。どんなにこの手で守りたいと思っても、背中を向けられてしまったのに。そばにいて欲しいって、やっと俺を頼ってくれた」
喜びで胸を震わせながら、凛を強く抱きしめて耳元でささやく。
「知ってる?俺がどんなに君に癒やしてもらったか。どんなに仕事で助けられたか。どんなに幸せな気持ちにさせてもらったか。そしてどんなに…。俺がどんなに君を愛しているか」
凛は航を見上げて新たな涙を流す。
その涙を、航はそっと親指で拭った。
「凛。優しくて強くて、子どもだけど大人で。可愛いけど美しい。そんな君が、俺は大好きだよ」
「私もです。どんな時も何があっても、いつも私を励ましてくれる、頼もしくて優しいあなたが大好きです。私の幸せは、あなたと一緒にいることなの」
「俺もだよ。どんな時も君のそばにいる。必ず君を幸せにする。これからもずっと一緒にいよう。凛、俺と結婚してくれる?」
凛は涙を溜めた綺麗な瞳で航を見上げ、微笑みながら頷いた。
「はい。あなたと結婚させてください」
航も優しく凛に微笑む。
「ありがとう。一生君を大切にするよ」
「私も。あなたを一生想い続けます」
やがて航の大きな右の手のひらが凛の左頬を包み、凛の顔をそっと上に向ける。
切なげに揺れる瞳に見つめられ、航は愛おしさで胸を一杯にさせながら、優しく愛を捧げるように凛の柔らかな唇にキスをした。
温かく幸せな気持ちで胸がしびれる。
必ずこの手で凛を守っていく。
もう二度と離さない。
そう心に固く誓い、再び航は凛を強く胸に抱きしめた。