君との恋のエトセトラ
「航さん、ようこそ!」
「こんにちは、杏ちゃん。元気だった?」
「元気元気ー!さ、入って」
「ありがとう」

結婚の挨拶に二人で訪れた長崎の実家。
玄関に取り残された凛は、憮然としながら靴を脱ぐ。

「航さん!遠い所をありがとう」
「お母さん、体調はいかがですか?」
「ええ、お陰様で落ち着いてるわ。あの時は本当にお世話になりました」
「いえ、お元気そうで何よりです」

そしてようやく皆は凛を振り返った。

「お姉ちゃん、どうしたの?ボーッと突っ立って」
「どうしたのじゃないわよ!杏もお母さんも、私のこと全く眼中にないんだから」
「それは仕方ないでしょ?航さん、カッコイイんだもん。つい目を奪われちゃうのよねえ」

杏はうっとりと頬に手を当てる。

「あー、目の保養。こんなカッコイイ人が私のお兄さんになるなんて!」

すると航は、真顔になって咳払いする。

「お母さん、杏ちゃん。今日はご挨拶に伺いました。改めて、和室でお話させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」

母は笑顔で航を促し、皆で座布団に正座する。

航は仏壇に線香をあげてから母と杏に向き直り、丁寧に両手を付いて頭を下げた。

「今日は皆様に、凛さんとの結婚をお許し頂きたくご挨拶に参りました。私はこれまで彼女の温かさに触れ、心が安らぎ、幸せな気持ちにさせてもらいました。私にとって凛さんはかけがえのない大切な人です。生涯かけて凛さんをお守りし、必ず幸せに致します。どうか、私とお嬢さんの結婚をお許しください」

深々と頭を下げる航に、母は涙ぐんで声をかける。

「お顔を上げてください、航さん。許すも何も、こちらこそどうぞよろしくお願い致します。あなたのおかげで凛も私達も救われました。本当に感謝しています。娘をどうぞよろしくお願い致します」
「はい。お父さんとお母さんの分まで、必ず私が凛さんをお守りします」
「ありがとう、航さん」

涙を拭う母に、杏は笑顔で笑いかけた。

「きっと今頃天国でお父さんも泣いてるよ。良かったなー、凛!って」
「そうね。誰よりも喜んでるでしょうね」
「そりゃそうよ。しかも優しくてこーんなイケメンの旦那様!これでひと安心だね。良かったね、お父さん」

杏は仏壇の父の写真に微笑む。
凛も心の中で父に語りかけた。

(お父さん。私、とっても素敵な人に巡り会えたよ。この人を好きになって、この人に好きになってもらえて、本当に良かった。絶対に幸せになるから、安心してね)

そして凛は、ふと思いつく。

(もしかして、お父さんが私達を引き合わせてくれたの?)

写真を見ると、父は優しく笑っている。
そうだよ、と言われている気がして、凛はふふっと微笑んだ。
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