君との恋のエトセトラ
「わあ、とってもお洒落なレストランですね。さすがは都会。なんだかテレビドラマの世界です」
「ははは!そう?」
「ええ。私の田舎にはこんなお店はありません」
「田舎って、どこ?」
「長崎の町外れです。見渡す限り、田園風景で」
「へえ。行ってみたいな」
「本当に?何もないですよ?」
「でも景色は綺麗だろう?星も見えるし空気も美味しいだろうな」
「そうですね、それは保証します」
「それならやっぱり行ってみたいよ」

待ち合わせしたイタリアンレストランで、洗練された店内に目を奪われていた凛は、スタッフに注文を聞かれて慌ててメニューを開く。

「えっと、河合さんは何がオススメですか?」
「そうだなー。俺はここのラザニアが好きでよく食べに来るよ」
「ラザニア、美味しそう!じゃあそれにします」
「俺もそうしよう。あ、ドルチェもつける?ティラミスが絶品だよ」
「ティラミス!はい、食べたいです」
「あはは!目が輝いてるね」

航はスマートにオーダーを済ませると、それで?と凛を促した。

「ひと晩考えてみて、どうだった?」
「はい。やはり私にはもったいないくらいありがたいお話で、出来ればやらせて頂けたらと。ですが、本当に私なんかでよろしいのでしょうか?私、掃除や洗濯も凡人のスキルしか持ち合わせておりませんが…」
「あはは!俺も超人のスキルは求めてないよ」
「そうですか。ではあの、もし私がご期待に添えられなければいつでもクビにしてください。その前提で、まずは試用期間としてお試しで雇って頂けたらと思います」
「分かった。早速そうしよう。あと月給なんだけど…」
「は?月給、ですか?それは一体、何の?」
「もちろん君のだよ。ハウスキーピングとしての月給」
「いえいえいえいえ、とんでもない!住み込みでお世話になるのに、お給料なんて!」
「どうして?それだと君はタダ働きになっちゃうよ?」
「当然です。だって住まわせて頂くのですから。あ!もしかして、別に家賃をお支払いしなければいけなかったでしょうか?そうですよね、私ったら図々しいことを。本当にすみません」
「まさか!そんなことしたら住み込みの意味がなくなる。もちろん家賃はいらない」
「でしたらそれだけでもう充分です。都会の家賃に見合う働きが出来る自信はありませんが、精一杯やらせて頂きます。どうかよろしくお願い致します」
「こちらこそ。じゃあ早速今週の日曜日に引っ越して来てくれる?」
「ははははい!よろしくお願い致します」

凛はひたすら恐縮して頭を下げ続ける。

「ねえ、もっと普通にしてくれない?俺がものすごい悪者みたいで周りの視線が痛いんだけど…」
「あ、はい!すみません」
「いや、だから。謝らないでって」
「そうですよね、すみません!」
「もう、ほんとに君は…。あ、ほら!ラザニアきたよ。食べよう」
「わあ!美味しそう!」

パッと顔を輝かせる凛に、航はようやく頬を緩める。

「どうぞ。熱いうちに召し上がれ」
「はい、いただきます!」

ふうふうと真剣に冷ましてからパクリとひとくち食べた凛は、満面の笑みを浮かべる。

そんな凛の仕草一つ一つを、航は微笑ましく眺めていた。
< 20 / 168 >

この作品をシェア

pagetop