君との恋のエトセトラ
席に着いてしばらくすると、司会者がマイクで挨拶を始めた。

社長のスピーチと乾杯の後、早速新作の紹介映像が流れる。

「わあ、素敵なデザインの商品ですね。シックで大人っぽくて、高級感があります。ファンデーションからアイメイクやパウダー、リップまで、シリーズなんですね。あ、メイクボックスやポーチもある!全部揃えたくなります」
「そうだな。どんな広告がいいだろう…」

航は早くも頭の中にイメージし始める。

最後に商品名が浮かび上がって映像は終わった。

【Selene】

「セレーネ…。ギリシア神話の月の女神か」
「そうなんですね?」

凛はうっとりと両手を組む。

「メイクを月のイメージに例えるなんて素敵。月って不思議な魅力がありますよね。神秘的で美しくて…。それに夜空に浮かぶでしょう?夜は女性も昼とは別人になるの。時には妖艶に、時にはミステリアスに…。なーんて!私って妄想女王ですね」

芋っ子の次は妄想女王?と、航は思わずぷっと吹き出す。

「あ、河合さん。今私のことバカだなーって思ったでしょ?」
「思ってないよ」
「嘘だー」
「思ってないって」
「どうだか。河合さんってしれっと嘘つくんだもん」

拗ねる凛を見ながら、航はふと今しがた聞いたばかりの凛の言葉を思い出す。

(神秘的で美しい月の魅力…。夜には別の顔になる女性。時には妖艶に、時にはミステリアスに)

なんとなくイメージが固まってきて、航は真剣に考え込む。

「わあ!美味しそう。いただきます!」

凛は運ばれてきた料理に目を輝かせて、早速食べ始めた。

(本当に色んな表情するな。子どもなんだか大人なんだか…)

幸せそうに料理を頬張る凛を、航は微笑みながら見つめていた。
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