君との恋のエトセトラ
「航、ちょっと顔貸せ」
その日の夜。
打ち合わせを終えてオフィスに戻ってきた航に、木原が低い声でそう告げる。
明らかにいつもと違う様子の木原に、どうしたのかと航は戸惑いながらついて行った。
「どういうことなのか説明しろ」
ひと気のない休憩室で、木原は航に向き合うなり乱暴に言葉を投げかける。
「説明って、何の話だ?」
「こっちが聞きたいよ。お前、凛ちゃんとどうなってんだ?どういう話の流れでMoonlightの打ち合わせに一緒に行くことになったんだ?なんで二人で新作発表会なんかに行くことになったんだよ!」
怒りを滲ませる木原に、航は言葉を失う。
「お前さ、俺達を影で笑ってたのか?みんなが凛ちゃんに助けられて喜んでるのを見て、バカだなって見下してたのか?それで自分はコソコソ隠れて凛ちゃんに取り入ってたのかよ?」
「まさか!そんな…」
「だったらなんでだ?分かるように説明しろ!」
航はうつむいて唇を噛みしめると、覚悟を決めて口を開いた。
「木原、悪かった。お前やみんなに隠していたことがある。彼女は今、俺のマンションで暮らしている」
「なっ…!」
木原は余りの衝撃に、目を見開いたまま微動だにしない。
「最初から説明するよ」
航は包み隠さず、事の経緯を全て話した。
凛が、母親と妹の為に仕送りをしていること。
その手助けとして、住み込みのハウスキーピングを頼んだこと。
上京して来たばかりで危険な目に遭わないよう、保護者代わりに見守っていること。
黙って聞いていた木原は、長い沈黙の後ようやく口を開く。
「航。お前、自分のやってること分かってるのか?住み込みのハウスキーピングだ?保護者代わりに見守ってる?バカ言ってんじゃないよ。お前はな、単に凛ちゃんを囲ってんだよ!」
「違う!そんなつもりは毛頭…」
「世間はそういう目で見るんだよ!若くて純粋な凛ちゃんを、お前は言葉巧みに同棲させてるってな。お母さんと妹の為だ?お前な、結婚前の凛ちゃんが男と同棲してるなんて知ったら、どんなに母親が悲しむか想像も出来ないのか?たとえ凛ちゃんに指一本触れてなかったとしてもだ」
航はハッと息を呑む。
「分かったら、今すぐ凛ちゃんと離れろ」
「だけど一人暮らしをしたら、彼女は実家に仕送り出来なくなる。それに節約しようとして、セキュリティのない安いアパートに住もうとする」
「だからってお前と同棲していい理由にはならない」
返す言葉もなく、航はただ立ち尽くす。
木原は小さくため息をつくと、おもむろに切り出した。
「それなら俺が凛ちゃんを引き受ける」
「…え?」
「お前みたいな卑怯な手は使わない。きちんと凛ちゃんに告白する。結婚を前提でつき合って欲しいってな。OKをもらえたら、すぐに俺のマンションで一緒に暮らす。正式な婚約者として」
それなら文句ないだろう?と聞かれ、航はうつむいたまま頷いた。
そうすることしか出来なかった。
その日の夜。
打ち合わせを終えてオフィスに戻ってきた航に、木原が低い声でそう告げる。
明らかにいつもと違う様子の木原に、どうしたのかと航は戸惑いながらついて行った。
「どういうことなのか説明しろ」
ひと気のない休憩室で、木原は航に向き合うなり乱暴に言葉を投げかける。
「説明って、何の話だ?」
「こっちが聞きたいよ。お前、凛ちゃんとどうなってんだ?どういう話の流れでMoonlightの打ち合わせに一緒に行くことになったんだ?なんで二人で新作発表会なんかに行くことになったんだよ!」
怒りを滲ませる木原に、航は言葉を失う。
「お前さ、俺達を影で笑ってたのか?みんなが凛ちゃんに助けられて喜んでるのを見て、バカだなって見下してたのか?それで自分はコソコソ隠れて凛ちゃんに取り入ってたのかよ?」
「まさか!そんな…」
「だったらなんでだ?分かるように説明しろ!」
航はうつむいて唇を噛みしめると、覚悟を決めて口を開いた。
「木原、悪かった。お前やみんなに隠していたことがある。彼女は今、俺のマンションで暮らしている」
「なっ…!」
木原は余りの衝撃に、目を見開いたまま微動だにしない。
「最初から説明するよ」
航は包み隠さず、事の経緯を全て話した。
凛が、母親と妹の為に仕送りをしていること。
その手助けとして、住み込みのハウスキーピングを頼んだこと。
上京して来たばかりで危険な目に遭わないよう、保護者代わりに見守っていること。
黙って聞いていた木原は、長い沈黙の後ようやく口を開く。
「航。お前、自分のやってること分かってるのか?住み込みのハウスキーピングだ?保護者代わりに見守ってる?バカ言ってんじゃないよ。お前はな、単に凛ちゃんを囲ってんだよ!」
「違う!そんなつもりは毛頭…」
「世間はそういう目で見るんだよ!若くて純粋な凛ちゃんを、お前は言葉巧みに同棲させてるってな。お母さんと妹の為だ?お前な、結婚前の凛ちゃんが男と同棲してるなんて知ったら、どんなに母親が悲しむか想像も出来ないのか?たとえ凛ちゃんに指一本触れてなかったとしてもだ」
航はハッと息を呑む。
「分かったら、今すぐ凛ちゃんと離れろ」
「だけど一人暮らしをしたら、彼女は実家に仕送り出来なくなる。それに節約しようとして、セキュリティのない安いアパートに住もうとする」
「だからってお前と同棲していい理由にはならない」
返す言葉もなく、航はただ立ち尽くす。
木原は小さくため息をつくと、おもむろに切り出した。
「それなら俺が凛ちゃんを引き受ける」
「…え?」
「お前みたいな卑怯な手は使わない。きちんと凛ちゃんに告白する。結婚を前提でつき合って欲しいってな。OKをもらえたら、すぐに俺のマンションで一緒に暮らす。正式な婚約者として」
それなら文句ないだろう?と聞かれ、航はうつむいたまま頷いた。
そうすることしか出来なかった。