君との恋のエトセトラ
「凛ちゃん、おはよう。ちょっといいかな?」
「はい」
気を抜けば涙がこぼれそうになる中、なんとか気持ちを落ち着かせて出社した凛は、木原に呼ばれてあとをついて行く。
「座って。温かいミルクティーでいい?」
休憩室の自動販売機で、木原は凛にペットボトルのミルクティーを買った。
「ありがとうございます」
礼を言って受け取るが、飲む気にはなれない。
黙って握りしめていると、木原が心配そうに顔を覗き込んできた。
「どうかした?凛ちゃん」
「いえ、あの。何でもないです」
「そうは見えないよ。いつも笑顔の凛ちゃんが、今にも泣きそうになってる。何かあったの?」
「いえ、本当に何でもないです」
「…俺では力になれないから、話してくれないの?」
「そんな、そういう訳では…」
「じゃあ、航には話したの?」
「えっ?!それは、どういう…」
思わず顔を上げてまじまじと木原を見つめる。
木原は一つ肩で息をしてから、真剣に話し始めた。
「凛ちゃん。昨日航から全部聞いたんだ。凛ちゃんがお母さんと妹さんの為に仕送りをしたくて、航はその手助けが出来ればと、凛ちゃんを住み込みのハウスキーピングとして雇ったと言ってた。けど、よく考えてみて。結婚も、ましてやつき合ってもいない男と一緒に暮らすのは、すごく危険だよ。それに周りから誤解される。凛ちゃんは純粋で真っ直ぐな子なのに、違うイメージを持たれる。凛ちゃんが誰かと結婚する時に、相手の人にこのことが知られたら?それが原因で別れることになったら?辛い思いをするのは凛ちゃんだよ。航がしていることは、それくらい非常識なことなんだ」
「違います!」
強い口調できっぱりと言われ、木原は驚いて言葉を止める。
「私は周りからどう思われようと構いません。母と妹に仕送りする為なら何だってします。甘い考えではやっていけないことくらい、分かっています。だけど…」
ポロポロと凛の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「河合さんが悪く言われるのは耐えられません。私の為に、どんなに良くしてくださっているか…。河合さんを誤解しないでください。それに木原さん。河合さんと仲が悪くなったりしてませんか?お二人は同期で何でも話せる親友ですよね?どうか私のせいで喧嘩したりしないでください」
「凛ちゃん…。ひょっとして、航が好きなの?」
「まさかそんな!違います。河合さんは私なんかより遥かに大人で優しい方です。河合さんにはふさわしい方と結婚して頂きたいです」
「それなら、分かるよね?いつまでもこのままではいられないこと。凛ちゃんと暮らしていては、あいつだって彼女を作れない」
ハッと息を呑んで目を見開いてから、凛はうつむいて両手をグッと握りしめる。
「そう…ですよね。どうして気づかなかったんだろう、私。河合さんに大変なご迷惑をかけていたのに」
小さく呟く凛に、木原はゆっくりと口を開く。
「凛ちゃん。航のマンションを出て俺と暮らそう」
「…え?」
「俺は凛ちゃんが好きだ。結婚を前提につき合って欲しい。凛ちゃんさえ良ければすぐにでも引っ越しておいで。そうすれば今まで通り仕送りも出来るし、航の人生を邪魔することもない」
「河合さんの、邪魔を…」
「ああ。結婚は今すぐでなくていい。まずは一緒に暮らして、少しずつ二人の時間を増やしていこう。これからは俺がそばにいて、凛ちゃんを守っていく」
真剣に話しかける木原から目を逸らせずに、凛は長い間押し黙っていた。
「はい」
気を抜けば涙がこぼれそうになる中、なんとか気持ちを落ち着かせて出社した凛は、木原に呼ばれてあとをついて行く。
「座って。温かいミルクティーでいい?」
休憩室の自動販売機で、木原は凛にペットボトルのミルクティーを買った。
「ありがとうございます」
礼を言って受け取るが、飲む気にはなれない。
黙って握りしめていると、木原が心配そうに顔を覗き込んできた。
「どうかした?凛ちゃん」
「いえ、あの。何でもないです」
「そうは見えないよ。いつも笑顔の凛ちゃんが、今にも泣きそうになってる。何かあったの?」
「いえ、本当に何でもないです」
「…俺では力になれないから、話してくれないの?」
「そんな、そういう訳では…」
「じゃあ、航には話したの?」
「えっ?!それは、どういう…」
思わず顔を上げてまじまじと木原を見つめる。
木原は一つ肩で息をしてから、真剣に話し始めた。
「凛ちゃん。昨日航から全部聞いたんだ。凛ちゃんがお母さんと妹さんの為に仕送りをしたくて、航はその手助けが出来ればと、凛ちゃんを住み込みのハウスキーピングとして雇ったと言ってた。けど、よく考えてみて。結婚も、ましてやつき合ってもいない男と一緒に暮らすのは、すごく危険だよ。それに周りから誤解される。凛ちゃんは純粋で真っ直ぐな子なのに、違うイメージを持たれる。凛ちゃんが誰かと結婚する時に、相手の人にこのことが知られたら?それが原因で別れることになったら?辛い思いをするのは凛ちゃんだよ。航がしていることは、それくらい非常識なことなんだ」
「違います!」
強い口調できっぱりと言われ、木原は驚いて言葉を止める。
「私は周りからどう思われようと構いません。母と妹に仕送りする為なら何だってします。甘い考えではやっていけないことくらい、分かっています。だけど…」
ポロポロと凛の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「河合さんが悪く言われるのは耐えられません。私の為に、どんなに良くしてくださっているか…。河合さんを誤解しないでください。それに木原さん。河合さんと仲が悪くなったりしてませんか?お二人は同期で何でも話せる親友ですよね?どうか私のせいで喧嘩したりしないでください」
「凛ちゃん…。ひょっとして、航が好きなの?」
「まさかそんな!違います。河合さんは私なんかより遥かに大人で優しい方です。河合さんにはふさわしい方と結婚して頂きたいです」
「それなら、分かるよね?いつまでもこのままではいられないこと。凛ちゃんと暮らしていては、あいつだって彼女を作れない」
ハッと息を呑んで目を見開いてから、凛はうつむいて両手をグッと握りしめる。
「そう…ですよね。どうして気づかなかったんだろう、私。河合さんに大変なご迷惑をかけていたのに」
小さく呟く凛に、木原はゆっくりと口を開く。
「凛ちゃん。航のマンションを出て俺と暮らそう」
「…え?」
「俺は凛ちゃんが好きだ。結婚を前提につき合って欲しい。凛ちゃんさえ良ければすぐにでも引っ越しておいで。そうすれば今まで通り仕送りも出来るし、航の人生を邪魔することもない」
「河合さんの、邪魔を…」
「ああ。結婚は今すぐでなくていい。まずは一緒に暮らして、少しずつ二人の時間を増やしていこう。これからは俺がそばにいて、凛ちゃんを守っていく」
真剣に話しかける木原から目を逸らせずに、凛は長い間押し黙っていた。