君との恋のエトセトラ
第十九章 娘も同然
ピンポンとインターフォンが鳴り、航は玄関に行ってドアを開ける。

うつむいて立ち尽くしている木原を促して部屋に上げた。

「航、すまなかった」

リビングに入るなり頭を下げる木原に、航はため息をつく。

「謝る相手は俺じゃない。彼女だろ」
「ああ。でもお前にも迷惑をかけた。すまない」
「俺より先に彼女に謝れ。それと木原、聞きたいことがある。どうして彼女はこんなにも体調を崩したんだ?それに随分痩せた。どんな生活をしてる?ちゃんと休ませてるのか?」

すると木原は下を向き、何かを堪えるように両手の拳を握りしめる。

「おい、説明してくれなきゃ分からないだろう。お前、俺に言ったよな?正式な婚約者として彼女を引き受けるって。だから俺は安心して…」

航、と木原が口を開いて遮る。

「すまん。お前に隠していたことがある。俺は凛ちゃんとまだ一緒に暮らしていない。彼女に結婚を前提につき合って欲しいと告白したが、少し一人で考えさせて欲しいと言われた」

なっ…、と航は言葉を失う。

「何だって?それじゃあ、彼女は今どこに住んでるんだ?」
「マンスリーマンションだ。以前とは別の、もっと安くていいところが見つかったと言っていた。実家への仕送りも、今は半分の額にしているって…」
「お前、それを信じたのか?!」
「え…」

今度は木原が言葉に詰まる。

「信じるって…?え、嘘だって言うのか?」
「ああ。彼女のことだ。仕送りの額を半分になんて、そんなことをする前に自分がどうにか頑張ろうとする。だからこんなにもやつれて身体を壊したんだ」

もはや返す言葉もなく、木原は打ちひしがれてうなだれた。

「航、悪かった。俺がきちんと凛ちゃんを引き受けると言ったのに…。でもこれだけは信じてくれ。彼女を守ると誓った言葉に嘘はない。必ず俺が幸せにする。もう二度とこんな事態にはさせない。だから、もう少しだけ時間をくれ。もう一度凛ちゃんと話をさせて欲しい」

航はじっと耳を傾けて考える。
しばらく押し黙っていたが、ようやく顔を上げて頷いた。

「分かった。だが、今日のところは帰ってくれ。まだしばらくはゆっくり休ませなければ。あれこれ考えることも身体に悪い」
「そうだな、そうするよ。航、凛ちゃんを頼む」
「ああ」

木原は心配そうに奥の部屋のドアに目を向けてから、玄関に向かった。
< 93 / 168 >

この作品をシェア

pagetop