花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?
「課長にセクハラされたって言い触らして、女子社員の人気を下げたかったのに残念です」

「でしたら、私と同棲する旨を言い回ってみては? お望み通り、人気は急降下するでしょう。香さんから言えないのであれば私が皆へ伝えてもいいですし」

「なるほど、そうまでして花森課長は出世がしたいんですね。課長の野心に降参です!」

 両手を上げて、白旗を掲げる真似する。

 宮田香は私が襲わないと分かっているからこそ、露骨に誘ったのだ。元来、地頭は良いはずなのに宮田家が関わると知性を感じられない行動をとる。

 残業中にピザを頼んで代金を会社へ請求したり、財産目当ての男に部屋を追い出され、ホテル代を経費として計上してみたり。これでは構って貰いたくて悪戯する子供と大差ない。

「はぁ……」

 息を吐き、眉間を揉む。
 そして何より事態を悪化させるのは私を含め、社長と副社長も彼女の反抗期を可愛く思ってしまう事だろう。

「これ見よがしにため息を吐かなくても。課長は会社の評判を落としてくれるなって言いたいんでしょう?」

 彼女は私の一挙手一投足を見張り、常に悪い方へ考える。

「いいえーーむしろ2人で起業して好き放題しますか? あなたがどんなに経営を傾けようと私は建て直しますよ」

「つまり私の力ごときじゃ、どうにもならないって言いたいんですね! それともご自分は優れてるって意味?」

 うっかり漏らした本音にさえ噛み付き、警戒心を剥き出しにする。

「課長に比べたら私は至らないでしょうが、私だって……」

 唇をキュッと噛み、悔しさも隠さない。私はこの負けず嫌いな性格がとても好ましく、宮田香に惹かれる理由のひとつである。

 社長令嬢として生まれて何不自由なく暮らせるのに、父親と同じ技術者の道を選ぶなどなかなかのチャレンジ精神じゃないか。
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