花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか？

「え、えっ、課長？」

　背中には先程まで寝かされていたシーツの感触。課長もキングサイズのベッドへ乗り上げると手足で私を檻のように囲う。

「花森課長！」

　もう一度呼び掛けてみた。それなのに無表情で反応しない。おもむろに指先を目尻へ伸ばしてきて、そっと触れてくる。

「酔ったあなたは泣いて怒ったが、笑ってもいました。それが今はどうでしょう？　口を開けば私を拒んでばかり。それほど私がお嫌いですか？」

　肩肘を曲げ、顔を覗き込む。こうして至近距離で向き合っても瞳の奥が見えなくて。明かりがないからだろうか？　ううん、電気をつけても分からない。私は課長を知らな過ぎる。データがない。

　私が課長の本心を掴みきれないのと同じく、課長も私の唇に指を移動して情報を得ようとする。

「香さん、既成事実を作りましょう？　責任をとる覚悟は出来てます」

「私相手にそんな気になれます？　花森課長の女性の好みは可愛い系だって」

「さて、その噂の出所は？」

「昼食時に女子社員等が話していました。あ、聞き耳を立ててた訳じゃないです、勝手に入ってきただけ。野良猫の私は可愛くないでしょ？」

　半身を起こし胸板を押し戻そうとすれば、その仕草ごと包まれてしまう。

「い、いやいや、課長、冗談ですよね？」

　そのまま体重を預けられて踏ん張れない。

「課長！　離して、悪ふざけはやめーー」

「社内で異性の好みについて言及した記憶はありません。しかし、猫は好きですよ」