花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?
「ーーんっ、んんー!!」

 素早く口付け、ワンピースのチャックを降ろしにかかる。角度を変えたキスを何度も浴びるうち、力が入らなくなってきた。

「この程度でへばっていたら保ちませんよ。ほら」

 チュッとリップ音を立てて、バンザイを促す。ワンピースを脱がされると察知し、首を振る。

「か、課長、お、落ち着いて話し合いましょう。こんなの駄目ですってば」

「話し合い? ボディートークでいいです」

「んー、い、いやっ、あの」

 ストップをかけたものの、課長は容赦なく私を襲う。はだけた胸を隠す為に前屈みになれば、顎をすくわれ唇を重ねられた。

「ん、ん、はっ」

 鼻から声が抜けていく。課長のキスは理性を溶かす巧みさと、思考を痺れさせる毒みたいな効果があって、このまま流されてもいいかもーーいや駄目だ、一瞬過ぎり慌てて打ち消す。

「ボディートークとか、親父ギャグ言わないで、全然笑えない」

「……ほぅ、まだ可愛くない事が言えるんですね」

 酸欠になる私に対し、課長は顎に手をやり微笑む。この人、考え事をするとこの仕草をする気がする。

「はは、なにせ野良猫なもので」

 そっぽを向いたらククッと喉を鳴らして、私が見ていない範囲でこっそり笑う。
 段々と課長の癖が分かってきた。ただ悔しいかな、ベッド上のアドバンテージはあちらにある。どうにかして、ここから逃げ出す方法は無いだろうか。

「引っ張りますね、野良猫の件。私が飼って差し上げますよ。うちの猫になればいい」

「……飼う?」

「えぇ、あなたがやりたかったがーー」

「バカにしないで!」

 言葉のあやだろうが、私を『飼う』という表現がグサリと刺さった。心の一番柔らかい場所をえぐられると、力加減を忘れて突き飛ばす。
 よろける課長に枕を投げ付け、サイドテーブルに置かれた時計などもぶつけてやった。
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