花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?
「香さん、ま、待って。強行突破が過ぎます!」

 持ち前のコントロールの良さを発揮、投げた物はほぼ直撃させる。それでも怒りがおさまらずテーブルごと引っくり返そうとして羽交い締めにされた。
 部屋をめちゃくちゃに荒らされると緊張を覚えたらしく、課長の心臓の音が伝わる。

「はぁ、はぁ、寝室でこの体勢は異様ですね。まるで部屋主と侵入者だ」

「野良猫の次は泥棒猫とでも言いたい?」

「誰が巧い言い回しをしろと……香さん?」

 後ろから拘束していたのをくるりと回し、向き合う。私の肩はわなわな震え、抱える深い怒りを振動で届けた。
 すると課長は顎に手を当てる。強引に迫ったにしろ、こんな拒み方は凶暴だと感じて、他に理由を探しているのだろう。

「私を飼うなんて言わないで!」

 課長の手を爪を立てて剥がす。課長は痛みで眉を僅かに動かすも、言葉の続きを待つ。

「一夜のあやまち的な関係になろうと、それは課長が言った通り、危機管理がしっかりしていないからで自業自得。でも、私を飼うとか言う人とは一夜でも無理、本当に無理、絶対に無理」

 無理という響きを積み上げ、心の壁にする。これ以上、私に踏み込まないで、近寄らないでよ。

「……そうですか、私は余計な事を言ってしまったのですね。少々浮かれてしまいました、申し訳ありません。訂正させて頂きます」

 言うなり、私の乱れた服を甲斐甲斐しく整え、汗によって張り付いた髪を首元から払う。
 てっきり嫌味で言い返されると構えたが、素直に引き下がる花森課長。ホッと息をつく私を見詰めた。

「残念ですが飼えないのならーーせめて鈴をつけておきましょう」

「っ! え、は? キ、キスマーク!?」

 肌に赤い花を散らされる。

「それから抱き締めて眠ってマーキングします」

「えぇ、な、なんで? そうなるんですか!」
 
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