花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?
 突然、課長はシーツで私を包むとベッドへ一緒に倒れ込む。

「ちょっと、課長! どういうつもり」

「はい、お休みなさい」

 ジタバタもがくが、ギュッと抱き締められて背中をひたすら撫でられた。
 シーツで視界を塞がれ、こんな真似する課長の魂胆も見えないけれど、逆立った気分を鎮めようとする手付きは優しくて。ごめんね、ごめんねと謝っているみたい。

「こんな事されると、眠れるものも眠れなくなりますが」

「暴れた猫を捕獲するには、ネットなどで傷付けないよう覆うのが良いとありました」

「そちらこそ、まだ猫扱いしますか」

「諦められないので。私、猫と暮らすのが夢だったんです」

「なら本物を飼えば?」

「それは難しい。ここはペット禁止の物件でしてね」

「はは、意味が良く分かりません。私、課長が考えてる事、全然分かりません」

「ご心配なく。生活を共にするうち、理解は深まりますから」

 ベッドからシーツから課長の匂いがする。清潔でどこか甘い香りは眠気を誘い、いつしか抵抗をやめ瞳を閉じていた。

 どうやら課長は私が眠りにつくまで撫で続ける気らしい。なんだか寝てしまうのが惜しく眠気の淵で堪えてしまう。と、ラッピングを解くようにシーツの一部が開き、額と頬へキスが落とされる。
 こんなキスはズルい、照れる。寝た振りを決め込むしかない。

「お休みなさい、香さん。よい夢を」

 ククッと喉を鳴らす課長。また私が見ていないところで笑うから、ほんの少しだけ、その笑顔を見てみたいと思った。
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