花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?
「そんなにジロジロ見ないでくれます? 食べにくいです。明さんのカレーはカレーで美味しいし、手料理って味を比べるものじゃないでしょうに」

「これまで慣れ親しんできたマスターの味を、私が上書きしていくと考えたら感慨深い」

 たぶん、課長にとっては餌付け感覚なのだろう。

「会社まで送ってくれると言いましたが、午前中は休もうと思って」

「半日休暇ですか? 事前に申請してあります? 突発的に有給休暇を使用するのは宜しくないですよ」

「はいはい、おっしゃる通り。ですが着替えがないんですよ」

「あぁ!」

 課長は納得したようだ。

「なので半休を使いたいです。いいですか? 花森課長」

 私もコーヒーを飲むと、既に私好みの甘さに調整されていた。課長のマグカップには砂糖やミルクは入ってなさそう。

「香さんの直属の上司じゃないので許可は出せません。しかし、休みを取得出来なそうなら教えてください。口添えします」

「いえ、課長が出てくる方がややこしい。遠慮しておきます」

 勤怠ルールの徹底は課長らしい。細やかな気遣いも出来る性格が身一つでやってきた私への配慮を忘れるのはワザとたろうか。

「失念しておりました。昨日と同じ服で出社はしにくいですよね。ましてワンピースは皺だらけ。お詫びに私も同行しましょう」

「はい?」

「服だけでなく、ここで暮らすに当たり必要な物を買い揃えておきますか。例えば歯ブラシ、スリッパ、香さん専用のマグカップとか」
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