花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?
「あの、お言葉ですが、突発な休みは駄目だと課長が言いましたよ?」

「我が社にはパートナーの為に休暇を使っても良い規定がありますので」

「いや、パートナーじゃないし」

「でしたら昨今の欧米ではペット休暇が認められつつあり、ペットは家族という意識が浸透してきましたね」

「ここ日本で私は人間です」

「……付いて行くのはご迷惑でしょうか?」

 口実を繕うのはやめて、ついに直球を投げてきた。迷惑もなにも一緒に買い物をする理由がないので困ってしまう。

「課長の場合、仕事に影響が出ません? まさか仕事を放り出して、私に付き合う気じゃないですよね? ヘッドハンティングされてきた人材がそんな真似をするなんて」

 がっかりだ、言外に込めた。すると課長はカップを置く。

「香さんは色々と勘違いをしています。技術者ならば根拠に基づいた判断をすべきで、先入観や憶測でものを言ったらいけません。私はヘッドハンティングされた訳でもなければ、仕事放棄も致しません」

「はぁ、またお説教? 勘違いだって言うなら証明して下さい。立証責任は課長にあるのでは?」

「……分かりました。ひとまず食器を下げ、それから部下達へ指示を出します。まぁ、前もって本日の業務内容は伝えてありますが念の為。で、あなたはその間にシャワーを浴びては?」

 課長は同行すると告げた時点で、その後の行動計画を立ててあった口振り。滑らかな根回しは続く。

「浴室はドアを出て、左にあります。タオルは新品ですのでご安心下さい」

 まだ話は終わっていないのに席を追われる。仕方なくお風呂へ向かい、部屋の広さをまざまざと見せ付けられた。
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