花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?


 馴染のブティックに行くと、さっそく店長が出迎えてくれる。

「いらっしゃいませ、あら?」

 花森課長の姿を見てニヤつく。

「今日は彼氏さんと一緒なんですね。彼氏さん、イケメンで羨ましい」

「違う、上司だから」

 店長は上司と服を買いに来るシチュエーションに戸惑うものの、課長が会釈する。

「宮田がいつもお世話になっております」

「いえいえ、こちらこそ。ご贔屓にして頂いてます。香ちゃんの上司の方だと」

「えぇ、彼女のワンピースを台無しにしてしまいまして。私も拝見しても宜しいですか?」

「勿論! どうぞご覧になって下さい」

 どうすれば仕事関係者がワンピースをシワだらけに出来ようか。課長は微妙な言い回しをした。店長がチラリと視線をこちらへ流し、シワの理由を察する。販売のプロである彼女は顧客が詮索されたくない部分に踏み込まない。

「ニ、三着まとめて購入しておきましょう」

 課長が隣に並び、言う。

「誤解される言い方、やめてくれません?」

「私は事実を申し上げたまで。あぁ、これなんて素敵じゃないですか?」

 女性の服の事など分からないだろうと思ったが、なかなかセンスがいい。仕事にもプライベートでも着られそうな一枚を勧めてくる。

「そちらは新作で、香ちゃんが好きそうなデザインです。ね、香ちゃん?」

 接客トークが割り込む。

「嫌いじゃないないけど……」

「このシャツに合うパンツはありますか? 彼女の足の長さを活かすシルエット、細身のものがいいですね」

 課長は私に服をあて、ふむと唸り顎に手をやる。

「香ちゃんは大体ワンピースやスカートを選んで、それはとても似合っているんですけれど、パンツスタイルも似合うと思うんですよ!」

「同感です」

 当事者を置き去りにした会話が始まった。
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