花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?
 兄の正論を跳ね返せる実績が私にはなくて。
 宮田家の娘という下駄を履く私に出来るのは花森課長との結婚および、パーティーで愛想を振りまく事だ。

 悔しい、悔しい。私はいつまでも宮田の籠の中から抜け出せない。

「悔しいなら結果を出すしかないぞ。期待している」

 鼻で笑い、兄の方から通話を終えた。
 ツー、ツー、ツー途切れた音は空っぽの私を介して大きく響く。



「おっ、今日は弁当ですか?」

 職場でお弁当を広げると物珍しそうに同僚が声を掛けてきた。
 玉子焼き、鮭の漬け焼き、ほうれん草のおひたし、栄養バランスのとれたメニューが見栄え良く詰められている。

「自作ではーーないですよね?」

「うん、まぁ」

「まさに愛情弁当って感じ。健康を気遣ってくれてるじゃないですか! いいなぁ〜」

 菓子パンを齧りつつ、今日の装いについても触れてきた。

「イメチェン?」

「イメチェンというか、まぁ」

 うんとかまぁだと濁すのが面白いのか、ますます突っ込まれる。

「あ、男が変わったんでしょ? しかもハイスペックな彼氏と思われます」

「なっ! 違うっ」

「えー、だって弁当作ってくれるし、服のセンスがめちゃくちゃ良い。そういう仕事がバリバリ出来そうなスタイル、男はみんな好きですよ。高嶺の花っぽくて」

 昼休み中なので周りに人が少ないのが救いだ。

「冗談やめて。高嶺の花とか、私はそういうのじゃない。それより休憩上がったらデーターの分析、頼める? 早めに仕上げちゃいたいから」

「あー、部署解体される前に? あなたはいいとして、リストラされるんじゃないかって皆が噂してます。困ったなぁ、この歳で再就職先を探すなんて」

「そんな事させない! ここにいる全員が居てこそ、研究は成り立っていたの。むしろ、私が居ない方が良かったくらいで……」
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