花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?
 お箸を置き、深呼吸する。

「弱音を吐いても始まらない。今は後悔が残らないよう動くしかない!」

 自分を奮い立たせる為、大きな声で宣言した。泣いても笑っても結果が変わらない、だとしても膝を抱いてその日を待つのは嫌だ。

「ごめんなさい」

 同僚がポツリと謝る。

「え、何が?」

「リストラの心配がなくていいよなって言った事です。あなたが社長令嬢としてじゃなく、一人の技術者として認められようとしていたのを此処にいる皆は近くで見ていたのに」

 気付くとデスクの周りに仲間が集まっていた。彼等は照れくさそうな顔をして、私へ頷く。

「全くだ、お嬢様だっていうのに真夜中まで残業したり、カップラーメン啜って朝まで粘った日もあったな。根性あるよ」

「部署解体はアンタのせいじゃないって全員、分かっていたんだ。行き場のないやるせなさをぶつけちまってすまない」

 目頭が熱くなる。私は皆の足を引っ張ってばかりで、社長に言われて仕方なく面倒を見ているのだと引け目を感じてきた。
 ここに並ぶメンバーこそ、たとえ解雇されようと引く手数多だろう。なにせ技術者の父が集めた精鋭達なのだ。


「早く皆さんと同じラインに立ちたくて、父へ多額の予算投入をお願いしたのは私です。親馬鹿の父は利益度外視の設備投資をし、兄によって是正されることとなりました」

 それでも、みんなと最後まで一緒に仕事をしたいと強く、強く思う。

「それは違う!」

 一人が声を上げた。今年定年を迎えるその人は父とは長い付き合いだ。

「宮田社長は確かに一人娘に甘いが、仕事に関しては厳しい人。愛娘にせがまれても無駄金は出さない。社長は君やこの部署に期待して予算を割り当てたはず。なぁ、最後くらい社長の気持ちに報いてやろうじゃないか?」

 古株の団結を促す言葉に一同は決意を固める。
 ロッカーから作業着を出し、私は胸に刺繍された宮田工業の名へ口付けた。
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