花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?

花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?



「うーん。買って貰っといてですが、このドレス、大人しすぎません?」

 そしてパーティー当日、私は課長の前でくるりと回って見せた。リビングで本を読んでいた課長が視線を上げ、もう一度ターンするよう合図する。

 私が普段好むレースやリボンをあしらわず、身体のラインに沿ったタイトなデザイン。色は黒、デコルテ部分はシースルーを採用している。

「もっとこう、フリフリしたのが良いと思いません? 華やかでパーティーって感じで」

「思いませんね。そもそもパーティーに参加したがらなかったのに、目立ってどうするんですか?」

 きっぱりと否定し、キッチンへ向かう。ちなみにテーブルに置いた本のタイトルは『塩分とカロリーを抑えたレシピ〜最低限の味付けで満足〜』だ。

 あれから会社への送迎を始め、食事の管理、残業で疲れた心と身体をサポートまでしてくれる為、ホテル住まいだった頃より快適な生活を送れている。

「ともあれパーティーに出るのは良い事ですよ。そちらのドレスを購入した甲斐があります。コーヒー、淹れましょうか?」

 椅子を引き、着席を促す。ターンの合図もそうだが、段々と課長の目が何を言いたいのか判別できるようになる。

「そう言えば、私が砂糖やミルクをいれるのを知ってたんですね」

「知ってたーーというより、見てました」

 黒猫がプリントされたマグカップを手渡し、課長も正面に腰掛ける。

「食堂でコーヒーを飲みながら仕事をしていたでしょう? その時に砂糖は二つ、ミルクを一つ入れていましたね。砂糖もミルクも会社の経費ですよ」

「うっ……」

「カフェインの取り過ぎに注意しましょう。何事も過度な接種は毒となりますので」
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