花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?
 書面というワードで一気に現実へ戻される。

「はぁ、ペットの飼育申請書でも作成するおつもりで? あぁ、そうだ! ついでにこのドレスに掛かった費用を実家へ請求するので一緒にお願いできます?」

 わざと可愛げのない返事をし、更にワガママを重ねた。無論、ドレスは経費で落ちないので実家に払ってもらおう。
 キスひとつで翻弄された挙げ句、絆されかけるなんて悔しい。

「分かってませんね」

 大袈裟に首を横に振る課長。
 今日はフォーマルな場に適した髪型にしており、前髪をあげた分、整った顔立ちが際立つ。

「何が?」

 座り直してマグカップを持つ。

「それを言うなら飼育申請書ではなく婚姻届です。ドレスは私があなたの為に選び、購入しました。男が服を贈るのは脱がせるまでセットになっているのですよ」

「ぶっ!! はぁ? 婚姻届とか脱がせるとか正気ですか?」

 危うく吹き出すところだった。課長は至極真っ当な言い分といわんとばかり、こちらを見ている。

「いやいや、ないない、無いですから! 話が飛躍し過ぎです。全くもう!!」

 取り乱すな、自分を落ち着かせて語る。

「課長が考えてる事、本当に分かりません。もう少し分かりやすくなりません?」

「分かりやすく、ですか。いかんせん私はむっつりなもので、思考が表面化しにくいのでしょう」

「はいはい、むっつりと言ったのを根に持たれているのはよく伝わりました。そうではなく私が言っているのはーー」

「好きですよ、あなたの事が。ずっと以前からあなたが好きでした」

 これは情緒もあったもんじゃない。あっさり告げられた。あんぐり口を開け、告白を飲み込めない様子を課長が笑った。

 課長がーー笑ったのだ。

「ふふ、そこまで衝撃的でしょうか? 私は香さんに近付きたくて宮田工業へ転職したのです」
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