花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?


 高級ホテルを貸し切って催されるパーティーは大勢の招待客で賑わい、著名人の姿も見受けられる。政財界を始めとし、政治家や芸能人まで父の人脈の広さを物語っていた。

 そしてこの豪華メンバーへ振る舞われる料理となれば、これまた有名シェフが手掛ける訳で。私はご自慢のメニューをこっそり堪能しようとするのだが……到着早々、関係者控室へ連行されたのだ。

「やぁ、香。今日は来てくれて嬉しいぞ。元気だったか?」

 父と兄が揃い、にこやかに迎え入れる。

「……それなりに。私に構ってないで挨拶回りをしたら?」

「いいんだ、我々が一番挨拶したいのは香だからな。実家に寄り付かなくなって久しい。今は花森課長と同棲しているらしいな」

 目尻を下げ、父は私をソファーへ案内する。かつて好きだったお菓子や飲み物が用意されており、離れて暮らしてきた月日を実感した。

「同棲じゃなく同居。どうせ兄さんに聞いているんでしょう?」

「勘違いしないでくれ、父さんは香が嫌がる結婚をさせる気は毛頭ないんだ。娘の幸せを願わない親などいない、なぁ?」

 兄と花森課長へ話題を振る。二人は壁際で顔をみあわせ、肩を竦めた。父が私に甘いと言いたいのだろう。

「昨今、親族経営に対して厳しい目が向けられているのを父さんも分かっているはず。花森課長を部長にすえ、会社運営を盤石な体制にしていく事が急務と言えます」

「あぁ、花森君の手腕は噂に聞いている。だが、それと結婚話は別じゃないか? 社長の椅子を引き継がせた以上、経営方針へ口は出さない。ただ香に関しては父親として言わせて貰おう」

「でしたらご心配なく。花森課長は香を大事にしてくれるでしょう。なにせ彼は数多のヘッドハンティングを断り、香が在籍する宮田工業へやってきたのです。どうだい? 香。驚いたか?」

 兄のしたり顔に息をつく。

「みたいね、本人から聞いた」
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