花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?
「それはお互い様でしょうに。万が一、香さんに危害をくわえられようものなら、社長も黙っていないはずです」

「それはそう。可愛い妹であり宮田工業の頭脳に傷を付けたら許さないさ。あぁ、花森は前職の上司と懇意にしてるようだな。香を引き抜こうなどと決して思わぬよう、伝えておくれ」

「……ますます香さんと結婚したくなりました。義弟になったら痛くもない腹を探るのをやめて下さいね」

 シャンパンを飲み切り、香さんの分も空にしておく。社長は私が元上司と連絡を取り合っているのを把握していて、香さんをハンティングされやしないか危惧する。

 私を含め、転職話に耳を貸すつもりはないが、まだ兄妹の関係は元通りといかないようで。
 ただ遠くない将来、社長と香さんは壁に飾られた集合写真と同じ寄り添い方が出来るだろう。あの写真を新しくする際は私も一員として映りたい。

「次は何を飲む? ワイン、焼酎、色々あるよ」

 マスターが聞いてくる。

「ありがとうございます。ソフトドリンクをお願いします。香さんにも同じものを」

「君はお酒が強いんだし、飲めばいいのに」

「いえ、私が飲むと彼女も飲みたがりますので。帰ったらやらなければいけない事がありますし」

 十中八九、そういう意味で言う。そこへピザを持った彼女が戻ってきた。

「な、何? どうしてそんな顔して私を見るの? わ、私だって料理はしますけど!」 

 社長とマスターの言い難い空気に傾げている。

「美味しそうに焼けてます。さっそく食べましょうか」

 私が取り分け役に立候補すると、香さんはせっせと皿を並べた。ピザを作るのが初めてらしく、調理過程を楽しそうに話す。
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