【マンガシナリオ】前略、恋文お返しするので婚約破棄してください。

第一話



○冒頭アップ・ヒーローの邸宅
 大量の文をばらまくヒロインのアップ。強気な表情。

(ひいらぎ)ゆい子
黒髪ロングヘア。着物を着た二十歳の少女。


ゆい子「初めまして、許嫁様。恋文お返ししますので、婚約破棄していただけますか?」

ゆい子モノローグ「決められた結婚なんて真っ平ごめん。
私は自分の運命も結婚相手も自分で決める――」


 ヒーローの目だけのアップのコマ。


○回想・柊家の屋敷・庭の木の上(昼)
モノローグ「時は大正、片田舎の辺境地にあるとある屋敷」

 木の上に登ってダダをこねるヒロインのゆい子。
 木の下でゆい子を呼ぶ二人の使用人。

●ウメ
長年柊家に支える。肝っ玉母さんといった雰囲気。推定五十代。

榎本(えのもと)
二十代後半の気怠そうな青年。ゆい子の両親が亡くなった六年前から働いている。


ウメ「お嬢様!!早く降りてらっしゃい!!」
ゆい子「いーやーっ」
榎本「お嬢様、ウメさんの雷が落ちる前に早く〜」
ゆい子「もう落ちてるじゃない!!」
ウメ「お嬢様!!(怒りマーク)」
ゆい子「嫌!!私は絶対結婚しないから!!」

ゆい子モノローグ「私の名前は柊ゆい子。
これでも子爵家の娘です」


 木の上からあかんべをするゆい子。


ゆい子モノローグ「但し両親は六年前に交通事故で亡くなり、家は没落したも同然。
駆け落ちだった両親に頼れる身内はなく、今は満咲(みつさき)公爵の援助の元で細々と暮らしています」

 満咲公爵のイメージ映像。黒いシルエットで高級そうなスーツに身を包んでいる。

ゆい子モノローグ「満咲公爵は貴族院議員という柊家(うち)とは比べ物にならないエリート一族。
何故没落華族を支援してくれているのかというと、公爵家の御曹司・満咲椿(つばき)様は私の生まれた時からの許嫁だから」

ゆい子「(公爵家に嫁ぐことは亡き両親の願いでもある…今まで生活してこれたのも椿様のおかげ…でも)」

ゆい子「会ったこともない人と結婚なんていやーっ!!」
榎本「お嬢様〜、そもそも結婚相手とは結婚するまで会わないのが普通なんすよ〜?」
ウメ「無駄ですよ。何度そう言っても納得しないんですから」

 
 木にしがみついて駄々をこねるゆい子。
 木の下から呼びかける榎本とやれやれと首を横に振るウメ。

ゆい子モノローグ「生まれた時から婚約していながら、私は椿様に会ったことがない。
両親の葬儀にも現れず、毎月文を送ってくるだけ。
なのに二十歳になったら急に嫁いでこいだなんて」

ゆい子「傲慢すぎるでしょーっ!!」


 木の上で叫ぶゆい子。


ウメ「お嬢様!大声なんてあげてはしたないっ!!」
榎本「まーまーウメさん」


 ずるっと足を滑らせるゆい子。


ゆい子「わっ」
ウメ「!! お嬢様っ!!」


 足を滑らせ、木の上から落ちるゆい子。
 慌てるウメと慌てているのかわからないが心配はしている榎本。
 ゆい子、落ちずに誰かに抱き止められる。

 丸メガネをかけたイケメンのアップ。郵便屋の帽子を被っている。
 彼がゆい子を抱き止めた。


郵便屋「大丈夫ですか?ゆい子お嬢様」


 心配そうにする男性のディフォルメ。
 メガネはビン底で目が見えない。


ゆい子「郵便屋さん!!」
郵便屋「びっくりしましたよ〜。急にお嬢様が落ちてくるんですから」


 郵便屋、スタンとゆい子を地面に下ろす。


ゆい子モノローグ「この人は郵便屋さん。毎月椿様からの文を届けてくれるので、自然と顔見知りになった」

郵便屋「はい、椿様からの恋文ですよ」
ゆい子「いらないっ」


 ゆい子、ぷいっとそっぽを向く。


郵便屋「どうしてですか?」
ゆい子「見なくても内容はわかるもの。どーせ早く嫁いでこいって言ってるのよ!」
郵便屋「結婚…嫌なのですか?」
ゆい子「嫌よ!!顔も知らない人と結婚なんて!私は結婚相手だって自分で決めるの!!」


 ゆい子のアップ。ヒキで困った表情を浮かべる郵便屋。


○庭の見える縁側
 座ってお茶を飲むゆい子と郵便屋。
 お茶を飲みながら肩を落とすゆい子。


ゆい子「はあ…ウメに怒られた…」


 ガミガミと怒るウメのディフォルメ。


郵便屋「毎回こうやってお茶をいただいてすみません」
ゆい子「いいんです!郵便屋さんにはいつも愚痴を聞いてもらってるし」
郵便屋「私で良ければいくらでも聞きますよ」


 ニコッと微笑む郵便屋。ゆい子も微笑み返す。


ゆい子「郵便屋さんは椿様に会ったことはあるの?」
郵便屋「まさか!自分のような平民が会えるような方ではありませんよ」
ゆい子「そっか」
郵便屋「本来お嬢様とこうしてお話させていただくのも恐れ多いのです」
ゆい子「私は華族とか平民とかよくわからないな。同じ人間には変わりないのに」
郵便屋「…ゆい子お嬢様は本当に素敵な方ですね」
ゆい子「そうかな?だって父様が言っていたんだもの。人間みんな皮を剥がせば骨と肉。
華族も平民も何も変わらないって!」


 笑顔のゆい子のアップ。キラキラエフェクトで無邪気さを演出。
 郵便屋の目だけのアップ。


郵便屋「ははっ!骨と肉だけですか!あなたは本当に面白い方ですね」


 声を上げて笑う郵便屋のアップ。


郵便屋「あなたのような方と結婚できる椿様は幸せ者ですね」
ゆい子「だから結婚しないって!」


 ぷいっとそっぽを向くゆい子。


郵便屋「でも満咲公爵家の椿様といえば、地位も名誉も容姿に至るまで完璧。まるで御伽話の王子様のようだと聞いたことがありますよ」
ゆい子「…私は王子様が欲しいわけじゃないの」


 寂しそうなゆい子の横顔。


○ゆい子の部屋
 ベッドの上で突っ伏して寝るゆい子。


ゆい子「恋文もいらないっ!!私はただ……」

ゆい子モノローグ「あなたに会いたい。
王子様じゃなくていいから、ただ一目椿様に会いたかった。
ただそれだけなの――」


 もらった恋文を握りしめて寝転がるゆい子のアップ。
 椿からの文の内容。

「ゆい子さん、あなたを想わない日は一日たりともありません。寝ても覚めてもあなたのことを恋しく思います」

ゆい子「だったら会いに来なさいよーっ!!」


 文を投げ捨てるゆい子。
 起き上がり、仕舞い込んである箱を引っ張り出す。
 パカっと箱を開ける。箱の中にはこれまでに届いた大量の文。


ゆい子「……」


 泣き出しそうなゆい子の横顔のアップ。
 トントンというノックの音。


ゆい子「! はい」
榎本「大丈夫っすか?」
ゆい子「榎本…」
榎本「その文、全部取ってあるんすね」
ゆい子「! これは別に…」


 ササッと箱を閉めるゆい子。


ゆい子「何となく文って捨てづらいから残してるだけで…」
榎本「お嬢様、明日公爵家の方が迎えに来るそうです」
ゆい子「!」
榎本「ウメさんが支度を整えてくれてますんで」
ゆい子「……」


 肩をすくめる榎本。


榎本「ウメさんがくれぐれも粗相がないように、とのことっす。うちがこうして生活できてるのは公爵様のおかげなんすから」
ゆい子「……わかってるよ」
榎本「それじゃ、俺は失礼するっす」


 部屋から出ていく榎本。


○廊下
榎本「一通残らず大切に保管して、不満ばかり垂れてるけど何度も開いては読み返してる。健気でかわいいっすよ、うちのお嬢様は」※苦笑


○翌日・公爵家の屋敷(昼)
 柊家の三倍の大きさの屋敷。
 それを見上げるゆい子と付き添いで来た榎本。


榎本「デカいっすね〜」
ゆい子「これが椿様の住むお屋敷…」
ゆい子「(お屋敷だけじゃない、帝都の街並は田舎とは全然違う。本当にお城に住む王子様みたいだ)」


 ゴクリと唾を飲み込み、緊張気味のゆい子。


執事「柊子爵のご令嬢、ゆい子様ですね?」


 腰の低い老齢の執事、ゆい子たちに向かって声をかける。


執事「お待ち申し上げておりました。どうぞ、こちらへ」
ゆい子「(いよいよね……!)」


 唾を飲み込み、少し緊張気味に屋敷内へ入るゆい子。


ゆい子「(初めて会う許嫁はどんな顔なんだろう?確か私より六歳年上だと聞いてるけど…)」


○応接室
執事「申し訳ありません、椿様は只今ご不在のようですので少々お待ちいただけますでしょうか」
ゆい子「はい」


 応接室に座って待つゆい子と榎本。


ゆい子「……」
榎本「緊張してます?」
ゆい子「べ、別にっ?」
榎本「噂によると絶世の美男子だそうですよ。社交界では数々の華族令嬢が我こそは妻にと群がるらしいっす」
ゆい子「そ、そうなの?(仮にも許嫁がいるのに?)」
榎本「公爵子息で絶世の美形となれば、相手がいようがいまいがお構いなしなんですかね」
ゆい子「……(もしかして私に恋文を送る裏では沢山の女性を侍らせていたというの!?)」


 ワナワナと震えているゆい子。


ゆい子「(やっぱり結婚なんて無理……!!)」


 ピカピカに磨かれた革靴のアップ。


???「お待たせ致しました」

ゆい子「(きた……!!)」


 すくっと立ち上がるゆい子。
 そのままバサっと大量の文をその場にばらまく。
 冒頭のシーンに戻る。


ゆい子「初めまして、許嫁様。恋文お返ししますので、婚約破棄していただけますか?」


 呆気に取られる椿の瞳のアップ。
 やっちまったな、という顔の榎本。
 強気な瞳で真っ直ぐに椿を見つめるゆい子。


椿「あははっ」
ゆい子「!?」
椿「これはこれは…大層なお出迎えありがとうございます」


 クスクスと笑う椿。
 楽しそうにゆい子を見つめる椿のアップ(かなりイケメンに)。


●満咲椿
おかっぱまではいかないが、ストレートで少し長めの髪。まつ毛が長く眉目秀麗な容姿。


ゆい子「(この方が椿様…!?本当に王子様みたい――)」


 改めて真正面から許嫁の顔を見つめるゆい子。
 その美しい容姿に思わずドキッとする。


ゆい子「(いやいや見惚れてる場合じゃない!)」
椿「まさか丹精込めて書いて届けた文をこのように突き返されるとはね…」
ゆい子「えっ届けた…?」
椿「僕の顔、見覚えありませんか?」
ゆい子「え……」


 椿の顔と郵便屋の顔。


ゆい子「えっ!?もしかして、郵便屋さん!?」
椿「はい」※ニッコリ
ゆい子「えぇーーーー!?(郵便屋さんが椿様だったの!?)」
椿「改めて自己紹介させてください。満咲椿、あなたの許嫁です」


 スッとゆい子の手を取り、手の甲に口付ける椿。


ゆい子「!?」※顔真っ赤
椿「先ほどの件ですが、婚約破棄を破棄します」※いい笑顔
ゆい子「なっ…」
椿「ゆい子さん、生まれた時からあなたは僕のものです。やっと手に入るのに手離すわけないじゃないですか」
ゆい子「……っ」


 にこーっと微笑む椿。


椿「これからよろしくお願いしますね」
ゆい子「(なっ…、何なの!?)」


< 1 / 5 >

この作品をシェア

pagetop