【マンガシナリオ】前略、恋文お返しするので婚約破棄してください。

第三話



○満咲邸内の洋室(昼)
 ドレスに着替え、ダンスのレッスンを受けているゆい子。
 ダンスの指導をしているのはゆい子の教育係となった初老の女性(以下先生)。


先生「背筋を伸ばす!ワンテンポ遅れています!」
ゆい子「ううう…」
先生「夜会や舞踏会に参加することも淑女の嗜みです。何よりあなた様は公爵家の伴侶となられるお方!
華族令嬢のお手本とならなければなりません」
ゆい子「(そんなこと言われても〜)」


 半泣きになりながら踊るゆい子。


先生「舞踏会本番まで時間がありませんよ!集中なさいませ!」
ゆい子「は、はいっ」


 練習時間終了後、肩で息をしながらヘトヘトになって座り込んでいるゆい子。


先生「明日もお稽古です。しっかり復習しておくのですよ」
ゆい子「はい……」
ゆい子「(そんなこと言われても、もうヘトヘトだよ…洋服は着慣れないし、靴も慣れなくて足が痛い…)」


 靴擦れをして足を痛めてしまったゆい子。


ゆい子「(どうしよう、血が出てる…)」


 座り込んでいたゆい子をヒョイっとお姫様抱っこする椿。


ゆい子「えっ…椿様!?」


 突然のことに戸惑い、真っ赤になるゆい子。


ゆい子「(ななななんで!?)」
椿「痛みに効く軟膏があるので塗って差し上げます」
ゆい子「いやあのっ」
椿「辛いでしょうからお運び致しますよ」
ゆい子「えーー!?」


○ゆい子の部屋
 ベッドの上に座るゆい子。靴擦れした傷に軟膏を塗る椿。


ゆい子「うっ」
椿「痛みますか?」
ゆい子「い、いえっ(緊張しちゃう…!)」
椿「慣れないのに無理をさせてすみません」
ゆい子「え…」
椿「僕だけで行ってもよかったのですが、そろそろ許嫁をお披露目しないと許嫁など幻だと言われてしまうので」
ゆい子「どういうことですか?」
椿「僕が一度も許嫁を連れて夜会に行かないので、嘘をついているんじゃないかと囁かれているのですよ」※苦笑
ゆい子「…そうですか」


 恥ずかしそうに椿から目を逸らすゆい子。


ゆい子「(ううう、椿様のお顔がまともに見られない…!この前あんなことされてしまったし)」


 第二話で抱きしめられたシーンの回想(※あんなこと)。


ゆい子「(今更だけど、私結構とんでもないことしちゃってるよね…?)」


 第一話で文を突き返したシーンの回想(※とんでもない こと)。


ゆい子「(あの突き返した文、結局どうしたんだっけ…?椿様が持ってるのかな?)」
椿「はい、できました」


 ゆい子の足に綺麗に巻かれた包帯のアップ。


ゆい子「あ、ありがとうございます…包帯巻くのお上手なんですね。キツくないし動きやすいです」


 足をブンブンと上下させるゆい子。


椿「お転婆なゆい子さんの治療ができるように練習しましたから」※ニッコリ
ゆい子「…っ!」
椿「ゆい子さん、少し息抜きしませんか」


 立ち上がる椿。


ゆい子「息抜き?」
椿「ええ、お出かけしましょう」


○街の仕立て屋(昼下がり)
 美しいドレスを取り揃えた仕立て屋。仕立て屋の主人、椿に恭しく挨拶する。
 ゆい子、初めてのお店に呆気に取られる。


仕立て屋「これはこれは満咲様、ようこそおいでくださいました」
椿「こんにちは」
仕立て屋「今日はどういったものをお探しでしょう?」
椿「僕の許嫁に似合うドレスを」


 ゆい子の肩を抱く椿。


ゆい子「!?」
仕立て屋「おお、これはこれは…!こちらが噂の許嫁様でしたか」
椿「ええ、一等美しいものをお願いします」
仕立て屋「かしこまりました」
ゆい子「ちょっ、椿様!?」
椿「これから夜会にも多く参加するでしょうし、必要でしょ?」
ゆい子「そうかもしれないけど…」
仕立て屋「こちらのドレスなんていかがでしょう?」
椿「良いですね。着てみてください」
ゆい子「えええ!?」


 言われるがまま、ドレスに着替えたゆい子。着慣れなくてぎこちない表情。


仕立て屋「よくお似合いですよ!」
ゆい子「……っ」
椿「……」※真顔
ゆい子「あの、椿様…?」
椿「違う」
ゆい子・仕立て屋「「えっ?」」
椿「よく似合っていますが、ゆい子さんの可愛らしさを完璧に引き出せているかと言われたら、まだまだです。
そもそもゆい子さんの体型には合っていませんね。裾が数尺余っているということは、ゆい子さんには大きすぎるということです。何より色味が良くない。ゆい子さんの絹のような肌がくすんで見えます」
ゆい子「(えぇーー!?細かっ!あとなんか怖っ!!)」
椿「他のドレスはありませんか?」
仕立て屋「は、はいっ!それでしたら…」


 慌てて別のドレスを持ってくる仕立て屋。


仕立て屋「黒いドレスはシックでエレガントです」
椿「喪服みたいです。ゆい子さんの無邪気な可愛らしさが引き立ちません」
仕立て屋「それではこちらの桃色のドレスなど…」
椿「肌を出しすぎです。言語道断ですね」
仕立て屋「こちらストールも絹物の一点物でして」
椿「ない」※バッサリ
ゆい子「ちょっと椿様!いくらなんでも…!」
椿「あれ?これなんて良いんじゃないですか?」


 あるドレスを見つける椿。


ゆい子「え?」
椿「でもこれだけでは物足りない…こちらのドレスの生地、ストールになりませんか?」
仕立て屋「えええ!?」
椿「どちらも買い取りますので」


 ビリッとドレスの生地を破く椿。


仕立て屋「ああっ!満咲様…!」
ゆい子「(えぇーー!?何してるの、椿様ったら…!!)」
椿「こちらを着てみてください。これをストールとして巻いて」
ゆい子「で、でも…っ」
椿「大丈夫です。後でストールとして綺麗に仕立て直していただきますから」
ゆい子「(そういう問題ではないと思いますけど!?)」


 ドレスに着替えたゆい子の等身アップ。キラキラエフェクトで可愛らしく。


ゆい子「(わあ…っ!)」
仕立て屋「こ、これは!何と素晴らしい…!」
椿「……美しい」
ゆい子「え?」
椿「想像以上です…まるで女神だ」


 口元に手を押さえてゆい子に見惚れる椿のアップ。


ゆい子「……!ほ、褒めすぎですっ」※真っ赤
椿「本当ですよ。今すぐ抱きしめて閉じ込めてしまいたいくらいです」
ゆい子「えっ?」
椿「あ、いえ。こちら、買い取ります。こちらのドレスの生地はストールとして仕立て直していただけますか?」
仕立て屋「かしこまりました。いやはや流石は満咲様、このドレスをストールにして合わせる見立て、お見事でございました」
椿「とんでもない。かわいい許嫁の魅力は僕が一番理解しているだけです」
ゆい子「っ!」


 ゆい子に向かってニコッと微笑む椿。


ゆい子「(は、反応に困る…!)」


 顔を真っ赤にして椿から顔を背けるゆい子。


椿「……ただ、これではウジ虫が湧いてしまいますね」


 誰にも聞こえない声で呟く椿。黒い表情。


○舞踏会前日・ゆい子の部屋(夜)
 椿が買ってくれたドレスを鏡の前で合わせるゆい子。ストールも仕立て直して綺麗に出来上がっている。


ゆい子「いいのかな、こんなに素敵なドレス買ってもらっちゃって…」


 椿の台詞を思い出して赤面するゆい子。


ゆい子「(ああもう、いちいち赤くなるな私…!椿様は社交界でああいうことには慣れてるのよ!)」
ゆい子「ということは、私以外の女性にもあんな風に褒めてるのかな…」


 ぼすん、とベッドの上に倒れ込むゆい子。


ゆい子「…それはいやだな…」
ゆい子「(椿様のことなんてどうでもいいはずなのに……)」


○ゆい子の部屋(深夜)
 布団を被って寝静まるゆい子。
 ゆい子の枕元に現れる椿。ゆい子、全く気づかずにすやすやと眠っている。
 ゆい子の顔に自分の顔を寄せる椿。


椿「かわいい寝顔ですね」
ゆい子「ん…」


 指で頬を撫で、ゆい子の唇に触れる椿。ピクリと反応するも起きる様子はないゆい子。
 椿、ゆい子の首元に唇を寄せて吸い付く。ゆい子の首元にくっきりとキスマークがつく。


椿「肌が白いからくっきり残ってしまうんですね…」


 ペロリと舌を舐める椿。


椿「あんなに綺麗なあなたを見たら、獣のような男たちが嫌らしい目で見るでしょうから…わからせておかないとね。
あなたは僕のものなんですよ、ゆい子さん。生まれた時からずっと――」


< 3 / 5 >

この作品をシェア

pagetop