【第二部】天妃物語 ~「私以外にもたくさん妻室がいた天帝にお前だけだと口説かれます。信じていいのでしょうか」~
「どうした。何かあったのか?」
「はい、じつは買い物の帰りにちょっと……。おみくじ屋があって、そこの店主に勝手におみくじを引かれたのです。あまりに失礼でびっくりしたんです」
「ハハハッ、そんなことがあったのか。天妃のお前を占うなんて、そのみくじ屋もたいしたものだ」
「笑いごとではありませんよ。まったく……」
私は少し拗ねた気分になりました。
そんな私を黒緋が「悪かった。怒るなよ」と慰めてくれます。たったそれだけのことなのにあっという間に拗ねた気分が消えてしまって、自分の単純さが可笑しいですね。
おみくじの結果は最悪だったので言いたくありませんが、もう気にするのはやめておきましょう。そもそも天妃の私を人間のおみくじ屋が占うなど到底無理なことなのです。
「それよりあなたの話しも聞かせてください。御所はどうでしたか? イナゴの件でなにか分かりましたか?」
「ああ、そのことだがやはり役所でも騒ぎになっている。このまま各地に蝗害が広がれば今年は飢饉になるだろう。もし来年まで影響が残れば大飢饉の引き金になりかねない。発生原因を安倍家や土御門家の陰陽師が占ったようだが原因不明ということだ」
「そうでしたか……」
安部家や土御門家とは都でも高名な陰陽師一族でした。
それというのもこの二つの家は百年ほど前に活躍した稀代の陰陽師・安倍晴明の血筋です。安倍晴明は人間の男と九尾の狐・玉藻御前の間に生まれた子どもだという伝説があり、人智を越えた力を操っていたと云われていました。
伝説というのは語られるうちに大袈裟になるものですが、今回に限っては真実だったりします。そもそも九尾の狐・玉藻御前は黒緋の式神なので間違いないです。
母親が大妖怪九尾の狐なんですから人智を越えた力くらいありますよね。そして現在の安部家と土御門家の一族にも普通の人間より強い神気が宿っていました。
「まあ仕方ない。安倍も土御門も腕の立つ陰陽師だが、人間が占ってどうこうできることではないようだ。離寛や式神にも調査させている。なにかあれば報せがくるだろう」
「それを待つしかないようですね」
「ああ。……だが、萌黄には苦労をかけそうだ」
「萌黄になにか?」
萌黄の名にすかさず反応します。
萌黄は私の大切な双子の妹。なにかあるならちゃんと知っておきたいですからね。
そんな私に黒緋は言いづらそうにしながらも教えてくれます。
「はい、じつは買い物の帰りにちょっと……。おみくじ屋があって、そこの店主に勝手におみくじを引かれたのです。あまりに失礼でびっくりしたんです」
「ハハハッ、そんなことがあったのか。天妃のお前を占うなんて、そのみくじ屋もたいしたものだ」
「笑いごとではありませんよ。まったく……」
私は少し拗ねた気分になりました。
そんな私を黒緋が「悪かった。怒るなよ」と慰めてくれます。たったそれだけのことなのにあっという間に拗ねた気分が消えてしまって、自分の単純さが可笑しいですね。
おみくじの結果は最悪だったので言いたくありませんが、もう気にするのはやめておきましょう。そもそも天妃の私を人間のおみくじ屋が占うなど到底無理なことなのです。
「それよりあなたの話しも聞かせてください。御所はどうでしたか? イナゴの件でなにか分かりましたか?」
「ああ、そのことだがやはり役所でも騒ぎになっている。このまま各地に蝗害が広がれば今年は飢饉になるだろう。もし来年まで影響が残れば大飢饉の引き金になりかねない。発生原因を安倍家や土御門家の陰陽師が占ったようだが原因不明ということだ」
「そうでしたか……」
安部家や土御門家とは都でも高名な陰陽師一族でした。
それというのもこの二つの家は百年ほど前に活躍した稀代の陰陽師・安倍晴明の血筋です。安倍晴明は人間の男と九尾の狐・玉藻御前の間に生まれた子どもだという伝説があり、人智を越えた力を操っていたと云われていました。
伝説というのは語られるうちに大袈裟になるものですが、今回に限っては真実だったりします。そもそも九尾の狐・玉藻御前は黒緋の式神なので間違いないです。
母親が大妖怪九尾の狐なんですから人智を越えた力くらいありますよね。そして現在の安部家と土御門家の一族にも普通の人間より強い神気が宿っていました。
「まあ仕方ない。安倍も土御門も腕の立つ陰陽師だが、人間が占ってどうこうできることではないようだ。離寛や式神にも調査させている。なにかあれば報せがくるだろう」
「それを待つしかないようですね」
「ああ。……だが、萌黄には苦労をかけそうだ」
「萌黄になにか?」
萌黄の名にすかさず反応します。
萌黄は私の大切な双子の妹。なにかあるならちゃんと知っておきたいですからね。
そんな私に黒緋は言いづらそうにしながらも教えてくれます。