【第二部】天妃物語 ~「私以外にもたくさん妻室がいた天帝にお前だけだと口説かれます。信じていいのでしょうか」~
公卿(くぎょう)は今回の責任を斎王に押し付けたいようだ。伊勢は遠い。遠い伊勢にいる斎王に責任を押し付けてしまえば中央は火の粉を被らなくて済むからな」
「なんていうことをっ」

 思わず声を上げました。
 今回のイナゴ大発生による蝗害(こうがい)に斎王は関係ありません。しかし豊穣(ほうじょう)祭事(さいじ)のあとに発生したこともあって、都合よく責任を押し付けようというのです。
 拳を握ってわなわなしてしまう。

「萌黄の祭事は完璧でした。落ち度など一つもありません。私が見守っていたんですから間違いないです。私が豊穣の約束までしたんですよ? 萌黄を疑うということは天妃の私を疑うということ。それがどういう意味か私が直々(じきじき)に教えて」
「こらこらこら。鶯、その辺にしておけ。それで天妃の天罰発動はさすがにな」
「わっ。す、すみませんっ……」

 私はハッとして大人しくなりました。
 いけませんね、萌黄のことになるとつい。萌黄のことを思うと私の姉としての愛情が元気になるのです。

「それで、公卿は斎王をどうするつもりなんです?」
「とりあえず斎王に祈祷を要請するようだ。処分はその結果次第ということらしい」
「そうですか。では祈祷までに蝗害の原因を突き止めたいですね。原因が分かれば私がなんとかしてあげられます」

 雨が足りぬというなら雨を降らし、陽ざしが足りぬというなら空の雲を払いましょう。
 それ以外が原因だったとしても私が必ず解決してあげます。天妃として斎王に豊穣を約束しました。ならばそれは絶対なのですから。




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