【第二部】天妃物語 ~「私以外にもたくさん妻室がいた天帝にお前だけだと口説かれます。信じていいのでしょうか」~
「今日は豊穣の祭事でしたね。斎王は十日前から禊をして大変だったことでしょう」
斎宮で行なわれる豊穣の祭事は日本国土全域の豊穣を祈る大規模な祭事でした。日本の神職最高位である斎王は日本国土の安寧を祈っているのです。豊穣の祭事もその一つでした。
私が池を見つめると、水面に伊勢にある斎宮が映りました。
儀式場になっている斎宮の庭園にはたくさんの巫女や白拍子、そして中心には斎王である萌黄の姿があります。
斎王は天上に舞や供物を奉納し、神気の宿った声で祝詞を唱えていました。
その光景を天上から見守りながら私はほうっとため息を一つ。
「立派ですよ、萌黄。あなたなら素晴らしい斎王になれると思っていました」
鈍臭いところがあるので目を離せませんが、それでも立派な斎王になってくれました。幼い頃は私と離れたくないと言って斎王になることを拒んでいたというのに……。ほうっとまたため息をついてしまう。
「萌黄、頑張っているあなたに私の加護をたっぷり授けますからね」
私は萌黄をよしよしするように水面を指でなでなでします。
「あなたの神気は私の神気。あなたが豊穣を願うように、私も大地の豊穣を願いましょう。この豊穣の祭事によって大地の実りが豊かになることを約束します」
天妃の約束。
その約束に私の神気が宿り、日本国土全域に広がりました。
これで大丈夫。今年は誰も飢えることがない豊穣を約束しましょう。
こうして私は日課になりつつある地上と萌黄の見守りを終えたのでした。
あれから月の満ち欠けが一巡しました。
天上も地上も平穏が続き、人々は日々つつがなく暮らしています。
「せいらん、こっちだ! はやくはやく!」
「あいあいあい~っ」
天上の宮殿で子どもと赤ちゃんの元気な声が響いていました。
もちろん紫紺と青藍です。二人は渡殿で追いかけっこをしているのです。
紫紺がパンパン手を叩きながら呼ぶと、青藍が嬉しそうにハイハイで追いかけます。二人とも広い渡殿を行ったり来たり、とても楽しそうに遊んでいます。
「ふふふ、青藍のハイハイの動きが早くなりましたね」
私は唐衣の袖で口元を隠して小さく笑いました。
タタタッと軽快に走る紫紺の後ろを、ペタペタペタペタと青藍も元気にハイハイです。小さな手で前へ前へと進む姿は可愛らしいものです。
「黒緋様もそう思いませんか?」
私は隣にいる黒緋を振り返りました。
黒緋も紫紺と青藍の元気な姿に目を細めます。
「ああ。青藍もよく動くようになった。そろそろ一人で立つんじゃないのか?」
「そうですね、なにかに掴まれば自分で立ち上がるようになりましたから。その時が楽しみです」
そう言って私は笑いかけました。
こうして黒緋と一緒に紫紺と青藍が遊んでいる姿を見守れるのは嬉しいことです。だってまるで家族の時間みたいじゃないですか。
もちろんここには多くの士官や女官たちが控えているので家族だけというわけではないのですが、それでも天帝の黒緋が私と私たちの子どもである紫紺と青藍のいる後宮に来てくれるのは嬉しいことでした。
斎宮で行なわれる豊穣の祭事は日本国土全域の豊穣を祈る大規模な祭事でした。日本の神職最高位である斎王は日本国土の安寧を祈っているのです。豊穣の祭事もその一つでした。
私が池を見つめると、水面に伊勢にある斎宮が映りました。
儀式場になっている斎宮の庭園にはたくさんの巫女や白拍子、そして中心には斎王である萌黄の姿があります。
斎王は天上に舞や供物を奉納し、神気の宿った声で祝詞を唱えていました。
その光景を天上から見守りながら私はほうっとため息を一つ。
「立派ですよ、萌黄。あなたなら素晴らしい斎王になれると思っていました」
鈍臭いところがあるので目を離せませんが、それでも立派な斎王になってくれました。幼い頃は私と離れたくないと言って斎王になることを拒んでいたというのに……。ほうっとまたため息をついてしまう。
「萌黄、頑張っているあなたに私の加護をたっぷり授けますからね」
私は萌黄をよしよしするように水面を指でなでなでします。
「あなたの神気は私の神気。あなたが豊穣を願うように、私も大地の豊穣を願いましょう。この豊穣の祭事によって大地の実りが豊かになることを約束します」
天妃の約束。
その約束に私の神気が宿り、日本国土全域に広がりました。
これで大丈夫。今年は誰も飢えることがない豊穣を約束しましょう。
こうして私は日課になりつつある地上と萌黄の見守りを終えたのでした。
あれから月の満ち欠けが一巡しました。
天上も地上も平穏が続き、人々は日々つつがなく暮らしています。
「せいらん、こっちだ! はやくはやく!」
「あいあいあい~っ」
天上の宮殿で子どもと赤ちゃんの元気な声が響いていました。
もちろん紫紺と青藍です。二人は渡殿で追いかけっこをしているのです。
紫紺がパンパン手を叩きながら呼ぶと、青藍が嬉しそうにハイハイで追いかけます。二人とも広い渡殿を行ったり来たり、とても楽しそうに遊んでいます。
「ふふふ、青藍のハイハイの動きが早くなりましたね」
私は唐衣の袖で口元を隠して小さく笑いました。
タタタッと軽快に走る紫紺の後ろを、ペタペタペタペタと青藍も元気にハイハイです。小さな手で前へ前へと進む姿は可愛らしいものです。
「黒緋様もそう思いませんか?」
私は隣にいる黒緋を振り返りました。
黒緋も紫紺と青藍の元気な姿に目を細めます。
「ああ。青藍もよく動くようになった。そろそろ一人で立つんじゃないのか?」
「そうですね、なにかに掴まれば自分で立ち上がるようになりましたから。その時が楽しみです」
そう言って私は笑いかけました。
こうして黒緋と一緒に紫紺と青藍が遊んでいる姿を見守れるのは嬉しいことです。だってまるで家族の時間みたいじゃないですか。
もちろんここには多くの士官や女官たちが控えているので家族だけというわけではないのですが、それでも天帝の黒緋が私と私たちの子どもである紫紺と青藍のいる後宮に来てくれるのは嬉しいことでした。