【第二部】天妃物語 ~「私以外にもたくさん妻室がいた天帝にお前だけだと口説かれます。信じていいのでしょうか」~
あわれなるもの、都の鬼1
私は空を見上げて眼を細めました。
明るい日差しが眩しくて、昨夜の嵐が嘘のよう。
でも庭園には小枝や葉があちらこちらに散っています。嵐の激しさを物語っているようでした。
私は朝から御所へ行く黒緋を見送ると、庭帚で庭園の掃除を始めます。
本当なら式神の女官や侍女たちがしてくれるのですが、嵐の後の晴天はとても気持ちがいいのです。
「ははうえー! こっちのあつめた!」
「ありがとうございます。綺麗になりましたね」
「うん、きれいになった! オレ、じょうず?」
「はい、とっても上手です。紫紺のおかげでお庭掃除が早く終わりそうです」
いい子いい子と頭を撫でてあげると紫紺はくすぐったそうにはにかみました。
背中におんぶしていた青藍まで主張してきます。
「あうあ〜、ばぶぶ!」
青藍がおぶわれたまま手足をばたばたさせました。
自分も褒めろというのです。青藍も一緒に掃除している気になっていたようですね。
「はいはい青藍、あなたもよく頑張りましたね。あなたが泣かずに見ていてくれたおかげで助かりました」
「あいっ」
「せいらん、なかなかったのえらいぞ!」
「あいっ」
青藍も誇らしげですね。
赤ちゃんの青藍は泣かなかっただけでえらいのです。そういうことでいいのです。
「さあ、今から昼餉の支度をします。できるまで青藍と遊んでいてください」
「わかった! せいらん、あそぼ!」
「あいあいあい~」
青藍をおんぶから降ろして紫紺に渡しました。
まだ三歳の紫紺ですが危うげなく抱っこしてくれます。
青藍は紫紺が大好きなのでぎゅ~っとしがみついて嬉しそう。でもしがみついた場所は紫紺の顔面なので大変です。
「せいらん、それじゃあまえがみえない~!」
「あう〜」
「おやおや青藍、そこにぎゅっとしたら兄上が転んでしまいますよ」
そうして賑やかにしていると、屋敷の奥から花緑青が大きなあくびをしながら顔を出しました。
しかも起き抜けのまま出てきたようですね。寝ぐせはそのままな挙げ句、夜着の前がはだけて厚い胸板が見えています。