【第二部】天妃物語 ~「私以外にもたくさん妻室がいた天帝にお前だけだと口説かれます。信じていいのでしょうか」~
「どうも初めまして。御子様方(みこさまがた)にお会いできて光栄です。さすが兄上の子どもだ。利発で見目も良い。神気にも恵まれている」
「はなろくしょうだな。オレもこーえーだ」

 紫紺はまっすぐ花緑青(はなろくしょう)を見上げて頷きました。
 三歳ながら初対面の大人にも堂々としています。

「あうあ〜……」

 今度は紫紺が小さな声をだしました。挨拶しているつもりです。
 おそるおそるといった様子のご挨拶ですが、いいのですよ、赤ちゃんは人見知りしていいのです。

「花緑青様、起きたなら顔を洗って身支度を整えてください。今から昼餉の支度をしますが、いかがいたしますか?」
「それはありがたいが、今日もみくじ屋を開いてきます。約束している客が何人かいまして。これでも人気なんですよ。兄上も言っていたとおりオレのみくじは当たりますから」
「そうですか。それはそれは。商売繁盛なのはよいことです」

 私は顔面にニコリッと笑顔を貼りつけて答えました。
 ここには紫紺と青藍がいるのです。ここで私が不機嫌になったら紫紺が不思議に思うでしょう。

「今日は一日良い天気のようですし頑張ってください。きっと路銀もすぐに貯まります」
「路銀が貯まるのは楽しみですが、少し寂しくもあります。路銀が貯まらなければずっとここにいられますから」

 私はぴくりっと反応してしまう。
 そうなのです。この人、路銀が貯まるまでここで滞在することになっているのです。
 昨夜、事情を知った黒緋は路銀が貯まるまで滞在を許しました。弟を路頭に迷わせるなど黒緋がするはずないのです。
 ましてや天上で不遇な目に遭い、修行するためにみずから地上に降りた弟です。きっと大切にしたいのでしょう。それは理解できることです。でもね、私は第一印象が良くないのでどうしても胡散臭(うさんくさ)さを拭えません。
 それに今も起き抜けの格好で屋敷をうろうろしているのも好みませんね。もう少し(つつし)みをもってほしいです。
 でも私はにこにこと笑顔を貼りつけます。これも黒緋と紫紺と青藍のため。
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