【第二部】天妃物語 ~「私以外にもたくさん妻室がいた天帝にお前だけだと口説かれます。信じていいのでしょうか」~
「弱気なことを。あなたが入山することで高野山の神気もさらに高まるはずです」
「義姉上にそう言っていただけると自信が持てます」
「あなたは黒緋様の弟、たとえ御母上が違っても天帝の血筋です」
「その母が人間の女でも?」
「そうです。御母上が人間の女人でも。あなたは黒緋様の大切な弟で、私の義弟ですよ」
私は花緑青を見つめてきっぱり答えました。
それは間違いようのない事実。黒緋が花緑青を大切に思っていることも事実。私は花緑青に胡散臭さを覚えていますが、それでも義弟は義弟なのです。
でもふと気付く。
一瞬、花緑青の顔が強張ったような……。
しかしそれは見間違いかと思うほど一瞬で、花緑青は口元にニヤリとした笑みを刻みます。
「それはどうも。やはり義姉上はお優しい」
「なんですか、その顔は。優しいなんてちっとも思ってないでしょう」
「とんでもない。口煩いなんて思っていませんから」
「それはどういう意味です!」
「アハハッ、失礼しました。ではオレはそろそろ行ってきます。義姉上と昼餉をご一緒できないのは残念ですが、夕餉までには帰ってくるのでお許しを」
花緑青は白々しいほど丁寧な口調で言うと屋敷の奥に戻っていきました。少しして支度を整えてくると「それでは」と軽い調子で出て行きました。
今日も寺院でおみくじ屋ですね。なじみ客がたくさんいるようなので待たせているのでしょう。
私はその後ろ姿を見送りました。
「義姉上にそう言っていただけると自信が持てます」
「あなたは黒緋様の弟、たとえ御母上が違っても天帝の血筋です」
「その母が人間の女でも?」
「そうです。御母上が人間の女人でも。あなたは黒緋様の大切な弟で、私の義弟ですよ」
私は花緑青を見つめてきっぱり答えました。
それは間違いようのない事実。黒緋が花緑青を大切に思っていることも事実。私は花緑青に胡散臭さを覚えていますが、それでも義弟は義弟なのです。
でもふと気付く。
一瞬、花緑青の顔が強張ったような……。
しかしそれは見間違いかと思うほど一瞬で、花緑青は口元にニヤリとした笑みを刻みます。
「それはどうも。やはり義姉上はお優しい」
「なんですか、その顔は。優しいなんてちっとも思ってないでしょう」
「とんでもない。口煩いなんて思っていませんから」
「それはどういう意味です!」
「アハハッ、失礼しました。ではオレはそろそろ行ってきます。義姉上と昼餉をご一緒できないのは残念ですが、夕餉までには帰ってくるのでお許しを」
花緑青は白々しいほど丁寧な口調で言うと屋敷の奥に戻っていきました。少しして支度を整えてくると「それでは」と軽い調子で出て行きました。
今日も寺院でおみくじ屋ですね。なじみ客がたくさんいるようなので待たせているのでしょう。
私はその後ろ姿を見送りました。