【第二部】天妃物語 ~「私以外にもたくさん妻室がいた天帝にお前だけだと口説かれます。信じていいのでしょうか」~
「紫紺、青藍、転ばないでくださいね」
「だいじょうぶだ! せいらんこっちだぞ!」
「あいあいあ~っ!」
二人ともはしゃぎながら長い渡殿の端まで走っていきました。
私と黒緋はそれを見守っていましたが、ふとハイハイしていた青藍がぴたりっと止まる。そして。
「うっ、うええええええええん!!」
突然大絶叫で泣きだしてしまいました。
えーんえーんと泣きだした青藍を紫紺が抱えて戻ってきます。
「ははうえ、せいらんがないた~」
「おやおやどうしました」
「あう〜あう〜、うええええんっ」
抱えられた青藍が私に向かって両腕を差し出してきます。抱っこして慰めろというのです。
私が抱きとると青藍が腕の中で丸くなり、「あう〜、あう〜、ちゅちゅっ」と泣きながら指吸いをしました。
そんな青藍に黒緋も苦笑して紫紺に聞きます。
「青藍はどうしたんだ?」
「ハイハイしてたらイナゴがぴょんってしてきたんだ。せいらんはびっくりしてないた」
「それで泣いたのか……」
「ないた。せいらんはなきむしだから、たくさんなくんだ」
紫紺が黒緋に説明してくれます。
どうやらハイハイ中に突然イナゴが前を横切ってびっくりしたようです。
でも黒緋は納得しているようなしていないような。青藍が泣き虫なのは分かっていても、それで泣くのか……という顔ですね。
私は抱っこした青藍の背中をよしよししながら黒緋に向き直ります。
「青藍はまた赤ちゃんですからね、それで泣くのです。この前はカエルで泣いていました。この子はびっくりすると泣いてしまうのです」
「赤ん坊はそういうものか」
「そういうものです。赤ちゃんなんですから」
私はそう言って腕の中の青藍に話しかけます。
「青藍、そろそろ大丈夫になりましたか?」
「あう〜あ〜」
「イナゴが突然現れてびっくりしたんですか?」
「あい~。ひっく」
「それで泣いてしまったのですね」
「あい、あい」
「そろそろ泣くのはおしまいになりそうですか?」
「あう〜、あい」
「涙をふいてあげますね」
「あい」
上手にお返事する青藍に笑いかけて、私は花の刺繍が施された手ぬぐいで涙を拭いてあげました。
「はい綺麗になりました。もう泣いていませんね」
「あいあいあい~」
青藍はすっかり上機嫌になってくれました。
それを見ていた紫紺も「よかったな」とまだ赤ちゃんの弟に笑いかけます。
「せいらんはなきむしだけど、おへんじはじょうずなんだ」
「それ褒めてるのか?」
「ふふふ、褒めていますよ」
黒緋は苦笑していますが、いいのです。紫紺はまだ三歳、青藍はまだ赤ちゃん。こうして毎日を楽しくすごしてくれることが私の望み。天帝の黒緋が私以外のところに通わず、ここで紫紺と青藍を見守ってくれることが最上の幸せです。
「だいじょうぶだ! せいらんこっちだぞ!」
「あいあいあ~っ!」
二人ともはしゃぎながら長い渡殿の端まで走っていきました。
私と黒緋はそれを見守っていましたが、ふとハイハイしていた青藍がぴたりっと止まる。そして。
「うっ、うええええええええん!!」
突然大絶叫で泣きだしてしまいました。
えーんえーんと泣きだした青藍を紫紺が抱えて戻ってきます。
「ははうえ、せいらんがないた~」
「おやおやどうしました」
「あう〜あう〜、うええええんっ」
抱えられた青藍が私に向かって両腕を差し出してきます。抱っこして慰めろというのです。
私が抱きとると青藍が腕の中で丸くなり、「あう〜、あう〜、ちゅちゅっ」と泣きながら指吸いをしました。
そんな青藍に黒緋も苦笑して紫紺に聞きます。
「青藍はどうしたんだ?」
「ハイハイしてたらイナゴがぴょんってしてきたんだ。せいらんはびっくりしてないた」
「それで泣いたのか……」
「ないた。せいらんはなきむしだから、たくさんなくんだ」
紫紺が黒緋に説明してくれます。
どうやらハイハイ中に突然イナゴが前を横切ってびっくりしたようです。
でも黒緋は納得しているようなしていないような。青藍が泣き虫なのは分かっていても、それで泣くのか……という顔ですね。
私は抱っこした青藍の背中をよしよししながら黒緋に向き直ります。
「青藍はまた赤ちゃんですからね、それで泣くのです。この前はカエルで泣いていました。この子はびっくりすると泣いてしまうのです」
「赤ん坊はそういうものか」
「そういうものです。赤ちゃんなんですから」
私はそう言って腕の中の青藍に話しかけます。
「青藍、そろそろ大丈夫になりましたか?」
「あう〜あ〜」
「イナゴが突然現れてびっくりしたんですか?」
「あい~。ひっく」
「それで泣いてしまったのですね」
「あい、あい」
「そろそろ泣くのはおしまいになりそうですか?」
「あう〜、あい」
「涙をふいてあげますね」
「あい」
上手にお返事する青藍に笑いかけて、私は花の刺繍が施された手ぬぐいで涙を拭いてあげました。
「はい綺麗になりました。もう泣いていませんね」
「あいあいあい~」
青藍はすっかり上機嫌になってくれました。
それを見ていた紫紺も「よかったな」とまだ赤ちゃんの弟に笑いかけます。
「せいらんはなきむしだけど、おへんじはじょうずなんだ」
「それ褒めてるのか?」
「ふふふ、褒めていますよ」
黒緋は苦笑していますが、いいのです。紫紺はまだ三歳、青藍はまだ赤ちゃん。こうして毎日を楽しくすごしてくれることが私の望み。天帝の黒緋が私以外のところに通わず、ここで紫紺と青藍を見守ってくれることが最上の幸せです。