【第二部】天妃物語 ~「私以外にもたくさん妻室がいた天帝にお前だけだと口説かれます。信じていいのでしょうか」~
「ええっ、畿内巡りですか?」
私は驚いて目を丸めました。
思わず声を上げた私に近くにいた紫紺と青藍もびっくり顔になります。
そんな私と子どもたちの反応に黒緋は満足そうに頷きました。
夕餉が終わった後、私と黒緋は晩酌をしながら月見を楽しんでいました。側では紫紺と青藍も食後のゆったりした時間を過ごしています。「せいらん、こちょこちょ~」「きゃああっ、あいあ~!」とおおはしゃぎ。仰向けでころころいている青藍を紫紺がこちょこちょして構っていたのです。
「きない? きないめぐりってなんだ!」
「あうあ〜、ばぶぶっ」
紫紺が側に駆け寄ってきます。青藍も上手にハイハイです。
紫紺は黒緋と私の真ん中にちょこんと座り、青藍は正座している私の膝に登りました。
「畿内とは京の都の周辺にある国々のことですよ。大和、山城、摂津、和泉、河内です」
「んん?」
紫紺が首を傾げてしまう。
そうですよね、ちょっと難しいですよね。
「都の外ということです。この都の外にもたくさん都のような場所があって、そこにもたくさんの人が暮らしているのですよ。畿内巡りとは、そこを旅するということです」
「うーん、たび……。にっき? てならいでよんだ」
「ふふふ、それは旅の日記ですね。しっかり手習いしているのですね、えらいですよ」
いい子いい子と頭をなでなでしてあげます。
どうやら紫紺は手習いで土佐日記を読んでいたようですね。土佐日記とは貴族の旅の日記なのです。
まだ三歳の紫紺ですが、さすが次代の天帝です。神格の力を宿した子どもでした。
そして意味が分かれば瞳がキラキラ輝きだします。
「ちちうえ、みんなできないめぐりするのか!?」
「そうだ。俺と鶯と紫紺と青藍で畿内巡りだ。明日出発するぞ」
「やったー! みんなでたびだ! せいらん、たびだぞ! みんなでおでかけだ!」
「あう?」
青藍がきょとんとして首を傾げます。
そうですよね、青藍にはちょっと難しいですよね。
でも紫紺は一生懸命教えようとしてくれます。