【第二部】天妃物語 ~「私以外にもたくさん妻室がいた天帝にお前だけだと口説かれます。信じていいのでしょうか」~
「始まりましたね。見事な剣舞です」
広場の中心で傀儡師の剣舞が始まりました。
煌びやかな衣装の二人の殿方がくるりと回転しながら剣を閃かせ、いにしえの戦いを表現した剣舞をします。
剣舞の動きはしだいに激しくなり、人の動きとは思えぬ曲芸の動きがあわさって観衆から大きな歓声があがりました。
そんな剣舞が披露される中、天女を表現する美しい衣装をまとった若い女人たちが出てきます。一座の傀儡女ですね。
六人の傀儡女は妖艶に舞って剣舞に花を添えます。
妖艶な女人たちが舞うと観衆たちは色めきだつ。傀儡女たちはそれを煽るように観衆のなかに入っていきます。そうすることで一体感が増して観衆はさらに盛り上がるようでした。
でもね、でも…………あんなに色気を振りまかなくてもいいんじゃないですか?
内心穏やかではなくなりました。
妖艶な傀儡女たちは観衆の殿方を狙って意味ありげな視線を送るのです。
……分かっています。そうですよね、分かっています。旅の一座というものが芸を売るだけではないということを。特に傀儡女はその土地の権力者に夜伽相手として呼ばれて銭を稼ぐこともあるのです。
一人の傀儡女が天女のように舞いながら私たちに近づいてきます。……いいえ、私たちが目当てではありませんね。どう考えても黒緋が目当てです。
舞いながら黒緋にさり気なく触れたかと思うと。
「旅の御方、わたくしの舞いをひとりじめしてくださいませ」
そう言って艶やかに微笑みました。
黒緋は苦笑しながらも動じることなく女人を見つめ返しています。彼はこういう誘惑に慣れているのです。
……そう、これは黒緋や傀儡女にとって挨拶のようなもの。天妃であり正妻である私が動じるまでもないこと。分かっています。でも……面白くありません。
色気を振りまくだけ振りまいて傀儡女が舞いながら去りました。
「鶯、そんな顔してどうした?」
ふと黒緋に声をかけられました。
無意識に顔が強張っていて不思議に思わせたようです。
私はにこりと微笑んで首を横に振ります。
「いいえ、なにも。美しい舞いですね」
「そうだな。夜露に濡れた花のように艶やかだ」
「はい」
顔に笑顔を貼りつけて頷きました。
なにが夜露に濡れた花のようですか。なにが艶やかですか。気を抜けば目を据わらせてしまいそう。
内心煮え立つ思いがあったけれど、私は平静を装って微笑んでいました。
黒緋に悪気はないのです。殿方にとって女人を愛でるとは、花を愛でるのと同じなのです。
その中で正妻だけは別格として扱われます。だから天妃であり正妻である私がこのようなことでいちいち怒っては正妻の格が下がるというもの。
それに今、黒緋の妻は私だけ。その事実だけで充分だと思わなければいけません。
広場の中心で傀儡師の剣舞が始まりました。
煌びやかな衣装の二人の殿方がくるりと回転しながら剣を閃かせ、いにしえの戦いを表現した剣舞をします。
剣舞の動きはしだいに激しくなり、人の動きとは思えぬ曲芸の動きがあわさって観衆から大きな歓声があがりました。
そんな剣舞が披露される中、天女を表現する美しい衣装をまとった若い女人たちが出てきます。一座の傀儡女ですね。
六人の傀儡女は妖艶に舞って剣舞に花を添えます。
妖艶な女人たちが舞うと観衆たちは色めきだつ。傀儡女たちはそれを煽るように観衆のなかに入っていきます。そうすることで一体感が増して観衆はさらに盛り上がるようでした。
でもね、でも…………あんなに色気を振りまかなくてもいいんじゃないですか?
内心穏やかではなくなりました。
妖艶な傀儡女たちは観衆の殿方を狙って意味ありげな視線を送るのです。
……分かっています。そうですよね、分かっています。旅の一座というものが芸を売るだけではないということを。特に傀儡女はその土地の権力者に夜伽相手として呼ばれて銭を稼ぐこともあるのです。
一人の傀儡女が天女のように舞いながら私たちに近づいてきます。……いいえ、私たちが目当てではありませんね。どう考えても黒緋が目当てです。
舞いながら黒緋にさり気なく触れたかと思うと。
「旅の御方、わたくしの舞いをひとりじめしてくださいませ」
そう言って艶やかに微笑みました。
黒緋は苦笑しながらも動じることなく女人を見つめ返しています。彼はこういう誘惑に慣れているのです。
……そう、これは黒緋や傀儡女にとって挨拶のようなもの。天妃であり正妻である私が動じるまでもないこと。分かっています。でも……面白くありません。
色気を振りまくだけ振りまいて傀儡女が舞いながら去りました。
「鶯、そんな顔してどうした?」
ふと黒緋に声をかけられました。
無意識に顔が強張っていて不思議に思わせたようです。
私はにこりと微笑んで首を横に振ります。
「いいえ、なにも。美しい舞いですね」
「そうだな。夜露に濡れた花のように艶やかだ」
「はい」
顔に笑顔を貼りつけて頷きました。
なにが夜露に濡れた花のようですか。なにが艶やかですか。気を抜けば目を据わらせてしまいそう。
内心煮え立つ思いがあったけれど、私は平静を装って微笑んでいました。
黒緋に悪気はないのです。殿方にとって女人を愛でるとは、花を愛でるのと同じなのです。
その中で正妻だけは別格として扱われます。だから天妃であり正妻である私がこのようなことでいちいち怒っては正妻の格が下がるというもの。
それに今、黒緋の妻は私だけ。その事実だけで充分だと思わなければいけません。