【第二部】天妃物語 ~「私以外にもたくさん妻室がいた天帝にお前だけだと口説かれます。信じていいのでしょうか」~
「黒緋様、なにかありましたか?」
「ああ、地上の各地でイナゴが大発生しているようだ」
「え、イナゴですか?」
目を丸めました。
それは予想もしていなかったことでした。
イナゴが一匹二匹いることはなんの問題もありません。問題なのは大発生しているということ。
イナゴは稲を食べるので、イナゴが大発生すると凶作の年になります。最悪の場合、地上で大飢饉が起きてしまうことも……。
そういった自然災害を完全になくすことはできません。しかし今年は来ないはずでした。
なぜなら、天妃の私がそう約束したから。
私は豊穣の祭儀を執り行なった斎王の祈りを聞き届け、豊穣を約束したのです。ならば今年は豊作なのです。豊作でないはずがありません。それなのに……。
「黒緋様、原因は分かっているんですか?」
「調べさせているが原因不明だ」
「そんな……」
困惑してしまう。
どう考えてもイナゴの虫害など起こるはずがありません。
「黒緋様、地上でなにか起こっているかもしれません。行ってはいけませんか?」
「まさか、お前が行くのか?」
「はい。豊穣を約束したのは私です。天妃として見過ごせません」
「気持ちは分かるが……」
黒緋は悩んでしまいました。
……そんなに悩むことでしょうか。以前の黒緋は一人で地上へ行っていたのに。しかも地上に行ったまましばらく帰ってこないこともあったくらいです。
「あなたはよく一人で地上に行くじゃないですか」
「今はそんなに行ってないだろ」
黒緋が少し言い訳じみた口調で言いました。
彼らしからぬ焦った様子に首を傾げてしまいます。
たしかに黒緋は以前より地上へ行く頻度が減りました。
私が遠ざけられていた頃はよく地上に遊びに行っていたのです。私が出迎えると機嫌を損ねてしまうこともありました。
でも四凶を倒して地上から天上に帰ってきてからは、黒緋は地上よりも後宮にいる私のところへ来てくれます。地上へ行かなくなったわけではありませんが、『顔を見に来た』と私がいる後宮へ会いに来てくれるのです。
「そうですけど。……黒緋様?」
うかがうように黒緋の顔を見つめました。
すると目が合った黒緋が少し苦い顔になってしまいます。……なにか余計なことを言ってしまったでしょうか。
内心心配してしまいましたが、黒緋もまたうかがうように私を見ました。そして。
「……嫌だったか? その、俺が地上に一人で行くのは」
「え、いきなりどうしました?」
「聞きたい。どうだったんだ」
「えっと……」
困りました。急にそんなことを聞かれても困ります。
黒緋は嫌だったのかと聞きますが、正直なところ他の妻室のところに行かれるよりはよかったです。
でもそんなことは言いたくありませんでした。嫉妬深い女だと思われて、面倒な女だと疎まれてしまうかもしれません。挙げ句、後宮に新たな妻を迎えられるのは絶対に嫌でした。
だから黒緋が好みそうな返事を考え、そっと笑いかけました。
「ああ、地上の各地でイナゴが大発生しているようだ」
「え、イナゴですか?」
目を丸めました。
それは予想もしていなかったことでした。
イナゴが一匹二匹いることはなんの問題もありません。問題なのは大発生しているということ。
イナゴは稲を食べるので、イナゴが大発生すると凶作の年になります。最悪の場合、地上で大飢饉が起きてしまうことも……。
そういった自然災害を完全になくすことはできません。しかし今年は来ないはずでした。
なぜなら、天妃の私がそう約束したから。
私は豊穣の祭儀を執り行なった斎王の祈りを聞き届け、豊穣を約束したのです。ならば今年は豊作なのです。豊作でないはずがありません。それなのに……。
「黒緋様、原因は分かっているんですか?」
「調べさせているが原因不明だ」
「そんな……」
困惑してしまう。
どう考えてもイナゴの虫害など起こるはずがありません。
「黒緋様、地上でなにか起こっているかもしれません。行ってはいけませんか?」
「まさか、お前が行くのか?」
「はい。豊穣を約束したのは私です。天妃として見過ごせません」
「気持ちは分かるが……」
黒緋は悩んでしまいました。
……そんなに悩むことでしょうか。以前の黒緋は一人で地上へ行っていたのに。しかも地上に行ったまましばらく帰ってこないこともあったくらいです。
「あなたはよく一人で地上に行くじゃないですか」
「今はそんなに行ってないだろ」
黒緋が少し言い訳じみた口調で言いました。
彼らしからぬ焦った様子に首を傾げてしまいます。
たしかに黒緋は以前より地上へ行く頻度が減りました。
私が遠ざけられていた頃はよく地上に遊びに行っていたのです。私が出迎えると機嫌を損ねてしまうこともありました。
でも四凶を倒して地上から天上に帰ってきてからは、黒緋は地上よりも後宮にいる私のところへ来てくれます。地上へ行かなくなったわけではありませんが、『顔を見に来た』と私がいる後宮へ会いに来てくれるのです。
「そうですけど。……黒緋様?」
うかがうように黒緋の顔を見つめました。
すると目が合った黒緋が少し苦い顔になってしまいます。……なにか余計なことを言ってしまったでしょうか。
内心心配してしまいましたが、黒緋もまたうかがうように私を見ました。そして。
「……嫌だったか? その、俺が地上に一人で行くのは」
「え、いきなりどうしました?」
「聞きたい。どうだったんだ」
「えっと……」
困りました。急にそんなことを聞かれても困ります。
黒緋は嫌だったのかと聞きますが、正直なところ他の妻室のところに行かれるよりはよかったです。
でもそんなことは言いたくありませんでした。嫉妬深い女だと思われて、面倒な女だと疎まれてしまうかもしれません。挙げ句、後宮に新たな妻を迎えられるのは絶対に嫌でした。
だから黒緋が好みそうな返事を考え、そっと笑いかけました。