こめかみに銃口
唇が解放されてようやく息ができる。
苦しかった……。心臓が、とまるかと思った。
「へえ。ほんとに憶えてないんだ」
むりやりキスしてきてどんな態度をとるかと思えば、彼は余裕そうに下唇を舐めてから笑った。
……なんなのっ、この男。
いきなりキスしてきて、なんでなんとも思ってないの?
ここがどこなのか、どうしてわたしがこんな収容所みたいな部屋に押し込められているのか聞きたかったのに。
「わたし、帰る」
「まあまあ。待ちなよ」
立ち上がろうとしたら、男に肩を押さえられた。
「憶えてること教えて。俺のことは知らないんだよね」
「…………」
無言を返す。
帰らせてもらえないなら、自分の身を守るためにベッドから今すぐ降りたいけど、男が質問を繰り出してきてタイミングを見失ってしまった。
「黛藍良。この名前に聞き覚えは?」
「……知らない」
「それが俺の名前」
ふーん。見た目がきれいだと、名前まできれいになるんだ。