こめかみに銃口
……いや、逆か。名前がきれいだから、見た目もきれいになったんだ、きっと。
「自分の名前は憶えてる?」
「……白椛凛桜」
わたしもきれいな名前を持っているけど、仕上がったのは無愛想で生意気な女。
名前と見た目は関係ないって、わたし自身が証明してた。
「最新の記憶はなに?」
「最新……?」
なんだろう。目が覚める前の記憶だよね。
えーっと……。
「朝、家を出るところ」
「家? ……実家のこと?」
「そう。それでたしか、美蘭蝶に向かおうとして――」
――〝美蘭蝶〟
自分でその名前を口にしておきながら、寒気に全身の毛が逆立った。
おおやけの場で口にするのも憚られるそれは、天国とも地獄とも言える場所の名前。わたしはそこに向かおうとしていた。
その記憶が、今わたしが思い出せる最後の映像だ。
と、いうことは……。
「ここって、美蘭蝶の中?」
「せーかい」
そ、んな……。
わたし、ついに〝あの〟美蘭蝶に足を踏み入れてしまったんだ。