【中編版】スパダリ煎茶家は、かりそめ令嬢を溺愛包囲して娶りたい。
***
高級住宅街を抜けて一時間ほどで誕生パーティーが行われるホテルに到着する。
私たちはホテルにチェックインを済ませると、ホテルマンに案内されるまま会場へと足を進めた。
さすが、と言うべきかロビーから思っていたけどとてもラグジュアリーな空間が広がっている。煌めいているシャンデリアはもちろんのこと、床は大理石だった。
まず会場に行く前に会場近くの重役控え室に案内をされた。主催者側だからしっかりと控え室は準備されるらしい。
「……さ、千愛。少し一息付きましょう」
「はい。お祖母様」
椅子に座ると、すぐに準備されるお茶。
紅茶ではなく、煎茶。最初は紅茶だったけど、最近は煎茶が多い。なによりお祖母様は製茶会社の社長だし、煎茶道を嗜んでいるから誰よりもお茶を淹れるのが上手だ。
「和成も座りなさい、淹れるから」
お祖母様がそう言えば「はい」と頷いて和成さんも座る。そのお茶を一口飲むと、とても渋みの前に甘みがあって美味しい。
「お祖母様のお茶、とても美味しいです。すごく……一度私も試してみたのですけど、全然で」
「ふふ、そうねぇ。私は幼い頃から煎茶道を習わされていたからかしら。それに、一日や二日で入れられるようになってしまったら家元や師範たちが驚かれてしまうわよ」
「確かにそうですわね。ふふっ」
「千愛は、本当に口調も礼儀作法も身につけてしまったのね。これなら人前に出しても恥ずかしくないわ。そういえば、講師の方も褒めていらっしゃったわね。物事をスポンジのように吸収されるから教え甲斐がある、と」
そんなふうに言っていただけるなんて嬉しい!でも、少しくすぐったい感じがして照れてしまう。
それに新しいものを覚えるのは好きだから良かったんだと思う。
「……そんなふうに言っていただけてとても嬉しいです。熱心に教えてくださるから、私も答えねばと思っているまでです」
「そうなのね、千愛は真面目ねぇ。また、お茶の淹れ方は後日教えましょうか」
「良いのですか?」
「えぇ、秘伝というわけじゃないからね……さて、そろそろ時間だわ。行きましょう」
お祖母様はそう言うと立ち上がる。私が立ち上がれば和成さんも立ち上がった。私たちは控え室を出ると、会場に向かって歩き出した。