【中編版】スパダリ煎茶家は、かりそめ令嬢を溺愛包囲して娶りたい。
◇大宮さんと再会しました
「――和菓子屋【お菊】の娘さん、だよね?」
そこにいたのは、頻繁に予約をしてくれた大宮様だった。
お店に来店してくださっている時は和服姿だったのに、今はグレーのジャケットに同じ色のズボン、白いシャツにグレーのベストを着ており、ネクタイとチーフはベージュの色に揃えてある。
それに、ストレートチップという甲の部分に横一文字切り替えが入ったデザインの靴を履いていた。
声を掛けられなきゃ、気付かなかった。
「あっ、はい。あれから父が亡くなって……お菊は閉店させたんです」
「そうか。噂には聞いていたけど……本当だったんだね。君のことも心配していたんだよ」
「すみません。ご心配をお掛けして……」
「だけど、なんでここにいるの? それに、婚約者がいたんじゃ?」
さすがに婚約破棄は噂にならないか。
もしかして、知らない?私のこと……あの場にいなかったのかな。