【中編版】スパダリ煎茶家は、かりそめ令嬢を溺愛包囲して娶りたい。
それから二言ほど話をして、向かったのは料亭の敷地内にある庭園だった。
ザ・日本庭園という感じの場所で夜だからか暗いけどとても風情がある。
庭園の奥には小川があって、大きな木もあって都会とは思えないくらいの自然が溢れている。その近くを何も話すことはなく歩くだけだ。
横目で大宮さんを見ると、横顔だけで顔が整っているのがわかった。
「どうかした?」
「……いえ、なんでもないですっ」
じっくり見過ぎた……失礼だったよね。
「そういえば、こうやって二人で一緒にお話をするのは初めてだね」
「そういえば、そうですね。大宮さんにはたくさんお店に来てくださったのに申し訳ないです。予約も、いただいていたのに」
「気にしないでいい。お父様が亡くなって、経営が難しくなったと聞いた。それに、予約分は他の和菓子屋の方に頼んでくださったじゃないか。感謝しているよ」
大宮さんが言っているのは店を閉めるにあたってお得意様に連絡を入れた。
手紙と、手紙が届いただろう時期に電話も入れた。そのお得意さんの中に大宮さんも入っている。
予約もしてくださっていたので、他の和菓子屋に頼んで予約分だけでも受けてもらえないか連絡を取ったのだ。
「いえ、当たり前です。いきなり作れませんじゃ誠意がないですからね……なので私にできることはそれくらいしかなかったので。でも大宮さんには、予約分の他にも注文していただいていたので本当に申し訳なくて……もう一度、謝りたかったんです」
「本当に気にしないでいい。俺は、【お菊】の和菓子は大好きだった。それに……俺は」
なぜか大宮さんはそこで言葉を止めた。口ごもっていて、何かを言おうとしている感じだった。