【中編版】スパダリ煎茶家は、かりそめ令嬢を溺愛包囲して娶りたい。
「――おお、千愛。今日も来てくれたのか」
「そうよ、お父さん。替えの服持ってきたのよ。後は洗濯物取りに来た」
お店から病院まではバスを乗り継いで三十分かかる。
私は、幼い頃から父と二人暮らしだった。
母は、私が物心着く頃には亡くなったらしい。親戚もいなくて、父子家庭として育ったためお世話とか出来るのは私しかいない。
「それはありがとう、あはは」
「あはは、じゃないよ。だけど、お店のことは気にしないでいいからね。瑛一さんがしっかり和菓子作ってくれているし私もいっぱい売ってるから」
「それは頼もしいなぁ」
「でしょ、だからね。心配はいらないよ。お父さんは治療に専念してください」
「わかったよ。そうさせてもらう」
お父さんと、笑い合うなんて言うぶりだろう……倒れる前、ぶりじゃないかな。
私は立ち上がると「そろそろ帰るね」と言って何気ない挨拶を交わした後、病室を出た。
そうして、その晩。突然、容態が急変して連絡がきた。そしてすぐに、父が亡くなってしまった。