【シナリオ】「俺と天国、イキません?」〜死神系男子に狙われてます〜
第五話 会いたくない人
◯レイコーポレーション・ミーティングルーム(午前)
前話からの続きのシチュエーション。
窓際に立つ営業部長。向かい合って、芽依と釜田が立っている。
気まずそうな表情の部長、納得のいかない表情の芽依、嬉しそうな釜田。
営業部長(針生明):スーツ姿。恰幅の良い50代半ばの男性。
芽依:ジャケット着用。スーツではないオフィスカジュアル(クルーネックのシャツにフレア系のスカートなど)
釜田:スーツ。
芽「どういうことですか!? 私がカノンを外れるって。対カノンさんの売上は落ちていないはずです。外されたら私の今期の売り上げが確実に下がります」
納得のいかない表情で針生に詰め寄る芽依。
部「府玻くんがよくやってくれているのはわかっているが、五蓋チーフの希望なんだ」
気まずい表情で告げる部長。
芽「え……」
〝五蓋〟の名前に反応して芽依の心臓がドクンと脈打つ。
芽「五蓋さんがですか? どうして」
釜「お前、五蓋さんのデザインにダメ出ししたんだろ? バカだな〜、あの人に任せとけば間違い無いのに」
ニヤけた顔で割って入る釜田。
芽「ダメ出し?」
部「先週の金曜の打ち合わせのときに、五蓋チーフのデザインしたポスターに『先方へ提出できない』と言ったそうじゃないか」
芽「え? でもあれは——」
部長は芽依を黙らせるように「ンンッ」と咳払いをする。
部「とにかく、これは決定事項だ。今後、カノンは釜田くんに担当してもらう。話は以上だ」
◯ミーティングルーム前のスペース(営業部に隣接・エレベーター前)
ミーティングルームを出た芽依と釜田。
芽依は放心状態で床を見つめて考え事。
隣の釜田は対照的に嬉しさを隠せない顔。
釜「カノンなんて五蓋さんに任せておけば売上確実だもんな。ガンガン攻めれば今期は売上トップも狙えるかもな〜」
芽「……そんなに甘くないわよ」
棚ぼた的な大口顧客の獲得に浮かれている釜田に、芽依は釘を刺すようにつぶやく。
釜「僻むなよ。引き継ぎよろしくな」
そう言って芽依の肩をたたき、釜田はニヤけたまま席に戻って行く。(背中を向けて適当に手を振るなど)
◯レイコーポレーション十六階の休憩スペース
窓の外に都会のビル群が広がる、十六階の休憩スペース。
自動販売機が二台あり、カフェ風のテーブルセットがいくつか置かれている。
芽依は落ち着かないような表情でエレベーターをおり、休憩スペースに足を踏み入れる。
芽「あ……」
自動販売機で缶コーヒーを買う五蓋に気づく芽依。
五蓋の服装:ジャケットにTシャツにデニムのズボン。デザイナーらしい服装。
五「おつかれ」
何でもないような表情で口元が笑っている五蓋。
芽「……」
平然としている五蓋に、うまく言葉が出ずに立ち尽くしている芽依。
五「なんだよ、なんかご機嫌ナナメだな」
五蓋は笑って鼻でため息をつく。
芽「……カノンさんの担当、私を外せって言ったって」
無表情に近いキツめの表情で言う芽依。
五「ああ、その件か。まあうん、そういうことだから」
五蓋は芽依の頭にポンと軽く触れる。
芽「どうしてですか? もう何年も一緒にやってきて、売上だってずっとキープできてたのに」
今度は少し不機嫌そうなため息をこぼす五蓋。
芽「……私のこと、邪魔になりました?」
五「……」
芽「ならもう、いいです」
眉を寄せ、クルッと向きを変え、エレベーターに戻ろうとする芽依。
五「芽依」
五蓋が芽依の右腕を引き寄せ、振り向かせる。
五「そんなに怒るなよ」
芽「会社では名前で呼ばないで」
不機嫌な表情の芽依の言葉に五蓋はクスッと笑う。
五「良かった。これからも会社の外で会ってくれるんだ」
五蓋、顔をしかめた芽依を抱き寄せて唇を奪う。
芽依、ギュッと目をつむって彼の胸をグイッと押して身体を離す。
五「〝府玻さん〟とはさ、仕事抜きの方がうまくやっていけると思うんだ。これからもよろしく」
なんでもないような顔でそう言って、すれ違いざまにまた芽依の頭にポンと触れる五蓋。
五「そのピアス、新しいよな。よく似合ってる」
五蓋はそのままエレベーターに乗り込む。
芽「嘘つき……」
顔を歪ませる芽依。(悲しさと憎らしさの混ざった顔)
◯営業部
自分のデスクに戻った芽依に、比良坂が話しかける。
二人ともパソコンに向かったまま。
比「大丈夫なんですか? カノンの件。なんか釜田さんが『今期は俺も売上一位狙うから』ってわざわざ言いに来たんですけど」
芽(釜田くんて、本当に嫌なやつ)
芽依は白けた目でパソコンを見る。
芽「他の顧客で売上上げるから大丈夫」
比「さすが」
比良坂はホッとしたように口角を上げる。
比「まあでも、俺が心配してるのはどっちかっていうと会社の方です」
芽「え?」
比良坂が芽依の方を見る。
比「府玻さんは俺の師匠なんですよ? カノンの売上が五蓋さんの力だけなわけないですよね。売上落ちるんじゃないですか?」
不敵に笑う比良坂に、芽依の胸がトクンと小さく音を立てる。
芽「師匠なんて大げさ。ただの教育係でしょ」
謙遜するように笑う芽依。
比「教育係の頃に府玻さんの真っすぐな営業姿勢を見せてくれたから、今の俺があるんです」
比良坂は今度は真剣な顔をする。
比「ま、釜田さんがどんなに頑張ってもトップは俺ですけど」
愛想なく言う比良坂。
芽「結局自分がすごいって言いたいわけね」
芽依は呆れた顔をしてパソコンに向かい直す。
芽「でも……ありがとう」
照れを隠すようにムッとしつつも小さな声でつぶやく。
◯列車の中(翌週土曜・昼)
芽依と比良坂は東京発静岡方面行きの列車に揺られている。
列車のボックス席で向かい合って座る。客はまばら。
芽依は進行方向を前にした向きで座り、無表情で窓の外を眺めている。
比「俺が一緒でいいんですか?」
芽「だって、〝つきっきり〟なんでしょ? それに、また私がお願いしたことだし」
比「芽依さんの実家って静岡なんだ」
比良坂も窓の外を見る。
窓の外には海辺の街の景色が広がっている。
芽「結婚予定の恋人ってことにはしてるけど、余計なことは言わなくていいから」
比「余計なことって例えば?」
芽「私が死ぬってことと、比良坂くんが死神ってこと」
二週間ですっかり『死ぬ』も『死神』も言い慣れてしまった芽依。
比「じゃあ俺が芽依さんのこと可愛いと思ってるっていうのは言っても良いんですね」
比良坂はニヤッと笑う。
芽「……それも言わなくていい」
比「でも恋人でしょ?」
ニヤニヤと芽依の顔を覗き込む。
芽「好きにして」
諦めるように言った芽依とは反対に、比良坂はどこか楽しそうな表情。
◯駅前(昼)
小清端と書かれた駅(架空の街)
駅前にはロータリーが広がり、その奥には広々とした道路がのびている。駅のすぐ近くにはアーケード商店街もある。
二人はタクシー乗り場で話している。
芽「駅前なのに何も無いでしょ? 商店街も活気がイマイチだし、最近は随分冴えない街になっちゃったのよ」
比「たしかに何も無いけど、芽依さんが育った街だって思うと興味あります」
芽「私が来るのは最後だろうけど」
比「三か月以上あるんだから、また来ればいいんじゃないですか?」
芽「……」
暗い表情の芽依は何も言わずにタクシーをつかまえて乗り込む。
タクシーの後部座席に座る二人。
芽依はここでも窓に肘をついている。
比「なんか芽依さんの言動とか表情見てると、あんまり地元が好きじゃなさそうって気がするんですけど」
芽「好きじゃないっていうか……そうね、嫌いではないけど好きでもないって感じ。地元なんてみんなそんなものじゃないの?」
比「人それぞれだとは思うけど、ドライな方って感じがするかな。芽依さんらしいって気もするけど」
芽依、何も言わずに車窓の景色を見ている。
都会とは違う、高い建物の無い住宅街だけが続いている。
芽「……地元は好きじゃないけど、実家はハッキリ言って嫌いに近い苦手」
ポツリとこぼす芽依。
比「じゃあなんで帰ってこようと思ったんですか?」
芽「さすがに親より先に死ぬ予定なんだから、顔見せに帰ってくるでしょ。べつに揉めてるわけじゃないし。生命保険の受け取り人も母にしたし、その報告も兼ねてる」
比「ふーん」
芽「それに……」
芽依は小さくため息をつく。
芽「実家にいるネコがもう長くなさそうだって、連絡が……」
芽依、言葉を詰まらせ涙目。
比「え……泣いてる?」
芽「当たり前じゃない。二十二歳なのよ? 私が小学生の頃から一緒にいたんだから」
比良坂がハンカチを差し出すと、芽依は目頭を押さえる。
芽「大学で上京するまでずっと一緒に寝てたの……本当は東京に連れて行きたかったのよ。でも一人暮らしだったし……」
さめざめと泣く芽依はそこまで言ってハッとする。
芽「比良坂くんの力でどうにかできないの? 時間を戻すとか」
比「そんなに長くは戻せないし、そんなことしても意味ないって芽依さんだってわかってるよね」
芽「……わかってるわよ」
芽依は拗ねながら反省するように口を尖らせ、しゅんと肩を落とす。
比良坂、芽依の肩を抱き寄せて、頭を撫でる。
比(これで〝かわいいって言うな〟はズルいな)
◯芽依の実家(昼)
府玻家はごくごく一般的な家。どちらかというと洋風。
芽依が玄関のドアを開ける。
芽「ただいま」
母「おかえりなさい」
芽依の母・佳寿衣:五十代後半。パーマのかかった白髪まじりの髪。身長は芽依と同じくらい。穏やかな顔立ち。
比「はじめまして、比良坂詠です」
佳寿衣にとびっきりのさわやかスマイルを見せる比良坂。
芽(誰!?)
目玉が飛び出る芽依。
佳寿衣は愛想の良い好青年に頬を赤らめる。
二人は府玻家の広いリビングに通される。
芽「お父さんは?」
母「散歩に出てるわよ」
芽「私が彼を連れてくるって言ってあるのに。相変わらずね」
芽依は呆れたようにため息をつく。
比「すみませんこれ。つまらないものですが」
比良坂、土産に持ってきたお菓子の箱を袋から取り出して佳寿衣に渡す。
母「あら、お気遣いいただいてすみません」
佳寿衣、比良坂の顔をジッと見る。
比「顔に何かついてます?」
佳寿衣はハッとする。
母「ごめんなさいね、芽依がお付き合いをしている人を連れてくるなんて初めてだから」
そう言われた比良坂は芽依の方を見る。
芽「三十歳にもなって彼氏の一人も連れてこないような親不孝な娘なのよ、私は」
不機嫌そうにこぼす芽依。
母「もう、芽依ったら、そんなこと言ってないでしょ」
比「俺は嬉しいですけどね」
比良坂、得意の愛想の良い笑顔を浮かべる。
二人はリビングのソファに座るよう促され、佳寿衣はお茶を入れにキッチンに行く。
比「苦手って言うだけあって、芽依さん機嫌が悪いね」
芽「……」
比「でもお母さんは穏やかで良い人って感じだけど?」
芽「……」
芽依の機嫌の悪さに徐々に不安になっていく比良坂。
「カチャッ」と音が鳴って玄関からリビングにつながるドアが開く。
初老で背の高い男性が姿を現す。
芽依の父・宏長:六十代前半。白髪交じりの髪に銀色の縁のメガネで、ポロシャツ。どこか芽依に似た少しだけキツめの顔。
父「ただいま。なんだ、もう帰っていたのか」
芽「おかえりなさい。お久しぶりです」
※〝シーン〟という効果音
お互いにムスッとした表情。
座った芽依を見下ろす宏長、目を合わせようとしない芽依。
二人を見て「拗らせてるな〜」という困った表情をする無言の比良坂。
前話からの続きのシチュエーション。
窓際に立つ営業部長。向かい合って、芽依と釜田が立っている。
気まずそうな表情の部長、納得のいかない表情の芽依、嬉しそうな釜田。
営業部長(針生明):スーツ姿。恰幅の良い50代半ばの男性。
芽依:ジャケット着用。スーツではないオフィスカジュアル(クルーネックのシャツにフレア系のスカートなど)
釜田:スーツ。
芽「どういうことですか!? 私がカノンを外れるって。対カノンさんの売上は落ちていないはずです。外されたら私の今期の売り上げが確実に下がります」
納得のいかない表情で針生に詰め寄る芽依。
部「府玻くんがよくやってくれているのはわかっているが、五蓋チーフの希望なんだ」
気まずい表情で告げる部長。
芽「え……」
〝五蓋〟の名前に反応して芽依の心臓がドクンと脈打つ。
芽「五蓋さんがですか? どうして」
釜「お前、五蓋さんのデザインにダメ出ししたんだろ? バカだな〜、あの人に任せとけば間違い無いのに」
ニヤけた顔で割って入る釜田。
芽「ダメ出し?」
部「先週の金曜の打ち合わせのときに、五蓋チーフのデザインしたポスターに『先方へ提出できない』と言ったそうじゃないか」
芽「え? でもあれは——」
部長は芽依を黙らせるように「ンンッ」と咳払いをする。
部「とにかく、これは決定事項だ。今後、カノンは釜田くんに担当してもらう。話は以上だ」
◯ミーティングルーム前のスペース(営業部に隣接・エレベーター前)
ミーティングルームを出た芽依と釜田。
芽依は放心状態で床を見つめて考え事。
隣の釜田は対照的に嬉しさを隠せない顔。
釜「カノンなんて五蓋さんに任せておけば売上確実だもんな。ガンガン攻めれば今期は売上トップも狙えるかもな〜」
芽「……そんなに甘くないわよ」
棚ぼた的な大口顧客の獲得に浮かれている釜田に、芽依は釘を刺すようにつぶやく。
釜「僻むなよ。引き継ぎよろしくな」
そう言って芽依の肩をたたき、釜田はニヤけたまま席に戻って行く。(背中を向けて適当に手を振るなど)
◯レイコーポレーション十六階の休憩スペース
窓の外に都会のビル群が広がる、十六階の休憩スペース。
自動販売機が二台あり、カフェ風のテーブルセットがいくつか置かれている。
芽依は落ち着かないような表情でエレベーターをおり、休憩スペースに足を踏み入れる。
芽「あ……」
自動販売機で缶コーヒーを買う五蓋に気づく芽依。
五蓋の服装:ジャケットにTシャツにデニムのズボン。デザイナーらしい服装。
五「おつかれ」
何でもないような表情で口元が笑っている五蓋。
芽「……」
平然としている五蓋に、うまく言葉が出ずに立ち尽くしている芽依。
五「なんだよ、なんかご機嫌ナナメだな」
五蓋は笑って鼻でため息をつく。
芽「……カノンさんの担当、私を外せって言ったって」
無表情に近いキツめの表情で言う芽依。
五「ああ、その件か。まあうん、そういうことだから」
五蓋は芽依の頭にポンと軽く触れる。
芽「どうしてですか? もう何年も一緒にやってきて、売上だってずっとキープできてたのに」
今度は少し不機嫌そうなため息をこぼす五蓋。
芽「……私のこと、邪魔になりました?」
五「……」
芽「ならもう、いいです」
眉を寄せ、クルッと向きを変え、エレベーターに戻ろうとする芽依。
五「芽依」
五蓋が芽依の右腕を引き寄せ、振り向かせる。
五「そんなに怒るなよ」
芽「会社では名前で呼ばないで」
不機嫌な表情の芽依の言葉に五蓋はクスッと笑う。
五「良かった。これからも会社の外で会ってくれるんだ」
五蓋、顔をしかめた芽依を抱き寄せて唇を奪う。
芽依、ギュッと目をつむって彼の胸をグイッと押して身体を離す。
五「〝府玻さん〟とはさ、仕事抜きの方がうまくやっていけると思うんだ。これからもよろしく」
なんでもないような顔でそう言って、すれ違いざまにまた芽依の頭にポンと触れる五蓋。
五「そのピアス、新しいよな。よく似合ってる」
五蓋はそのままエレベーターに乗り込む。
芽「嘘つき……」
顔を歪ませる芽依。(悲しさと憎らしさの混ざった顔)
◯営業部
自分のデスクに戻った芽依に、比良坂が話しかける。
二人ともパソコンに向かったまま。
比「大丈夫なんですか? カノンの件。なんか釜田さんが『今期は俺も売上一位狙うから』ってわざわざ言いに来たんですけど」
芽(釜田くんて、本当に嫌なやつ)
芽依は白けた目でパソコンを見る。
芽「他の顧客で売上上げるから大丈夫」
比「さすが」
比良坂はホッとしたように口角を上げる。
比「まあでも、俺が心配してるのはどっちかっていうと会社の方です」
芽「え?」
比良坂が芽依の方を見る。
比「府玻さんは俺の師匠なんですよ? カノンの売上が五蓋さんの力だけなわけないですよね。売上落ちるんじゃないですか?」
不敵に笑う比良坂に、芽依の胸がトクンと小さく音を立てる。
芽「師匠なんて大げさ。ただの教育係でしょ」
謙遜するように笑う芽依。
比「教育係の頃に府玻さんの真っすぐな営業姿勢を見せてくれたから、今の俺があるんです」
比良坂は今度は真剣な顔をする。
比「ま、釜田さんがどんなに頑張ってもトップは俺ですけど」
愛想なく言う比良坂。
芽「結局自分がすごいって言いたいわけね」
芽依は呆れた顔をしてパソコンに向かい直す。
芽「でも……ありがとう」
照れを隠すようにムッとしつつも小さな声でつぶやく。
◯列車の中(翌週土曜・昼)
芽依と比良坂は東京発静岡方面行きの列車に揺られている。
列車のボックス席で向かい合って座る。客はまばら。
芽依は進行方向を前にした向きで座り、無表情で窓の外を眺めている。
比「俺が一緒でいいんですか?」
芽「だって、〝つきっきり〟なんでしょ? それに、また私がお願いしたことだし」
比「芽依さんの実家って静岡なんだ」
比良坂も窓の外を見る。
窓の外には海辺の街の景色が広がっている。
芽「結婚予定の恋人ってことにはしてるけど、余計なことは言わなくていいから」
比「余計なことって例えば?」
芽「私が死ぬってことと、比良坂くんが死神ってこと」
二週間ですっかり『死ぬ』も『死神』も言い慣れてしまった芽依。
比「じゃあ俺が芽依さんのこと可愛いと思ってるっていうのは言っても良いんですね」
比良坂はニヤッと笑う。
芽「……それも言わなくていい」
比「でも恋人でしょ?」
ニヤニヤと芽依の顔を覗き込む。
芽「好きにして」
諦めるように言った芽依とは反対に、比良坂はどこか楽しそうな表情。
◯駅前(昼)
小清端と書かれた駅(架空の街)
駅前にはロータリーが広がり、その奥には広々とした道路がのびている。駅のすぐ近くにはアーケード商店街もある。
二人はタクシー乗り場で話している。
芽「駅前なのに何も無いでしょ? 商店街も活気がイマイチだし、最近は随分冴えない街になっちゃったのよ」
比「たしかに何も無いけど、芽依さんが育った街だって思うと興味あります」
芽「私が来るのは最後だろうけど」
比「三か月以上あるんだから、また来ればいいんじゃないですか?」
芽「……」
暗い表情の芽依は何も言わずにタクシーをつかまえて乗り込む。
タクシーの後部座席に座る二人。
芽依はここでも窓に肘をついている。
比「なんか芽依さんの言動とか表情見てると、あんまり地元が好きじゃなさそうって気がするんですけど」
芽「好きじゃないっていうか……そうね、嫌いではないけど好きでもないって感じ。地元なんてみんなそんなものじゃないの?」
比「人それぞれだとは思うけど、ドライな方って感じがするかな。芽依さんらしいって気もするけど」
芽依、何も言わずに車窓の景色を見ている。
都会とは違う、高い建物の無い住宅街だけが続いている。
芽「……地元は好きじゃないけど、実家はハッキリ言って嫌いに近い苦手」
ポツリとこぼす芽依。
比「じゃあなんで帰ってこようと思ったんですか?」
芽「さすがに親より先に死ぬ予定なんだから、顔見せに帰ってくるでしょ。べつに揉めてるわけじゃないし。生命保険の受け取り人も母にしたし、その報告も兼ねてる」
比「ふーん」
芽「それに……」
芽依は小さくため息をつく。
芽「実家にいるネコがもう長くなさそうだって、連絡が……」
芽依、言葉を詰まらせ涙目。
比「え……泣いてる?」
芽「当たり前じゃない。二十二歳なのよ? 私が小学生の頃から一緒にいたんだから」
比良坂がハンカチを差し出すと、芽依は目頭を押さえる。
芽「大学で上京するまでずっと一緒に寝てたの……本当は東京に連れて行きたかったのよ。でも一人暮らしだったし……」
さめざめと泣く芽依はそこまで言ってハッとする。
芽「比良坂くんの力でどうにかできないの? 時間を戻すとか」
比「そんなに長くは戻せないし、そんなことしても意味ないって芽依さんだってわかってるよね」
芽「……わかってるわよ」
芽依は拗ねながら反省するように口を尖らせ、しゅんと肩を落とす。
比良坂、芽依の肩を抱き寄せて、頭を撫でる。
比(これで〝かわいいって言うな〟はズルいな)
◯芽依の実家(昼)
府玻家はごくごく一般的な家。どちらかというと洋風。
芽依が玄関のドアを開ける。
芽「ただいま」
母「おかえりなさい」
芽依の母・佳寿衣:五十代後半。パーマのかかった白髪まじりの髪。身長は芽依と同じくらい。穏やかな顔立ち。
比「はじめまして、比良坂詠です」
佳寿衣にとびっきりのさわやかスマイルを見せる比良坂。
芽(誰!?)
目玉が飛び出る芽依。
佳寿衣は愛想の良い好青年に頬を赤らめる。
二人は府玻家の広いリビングに通される。
芽「お父さんは?」
母「散歩に出てるわよ」
芽「私が彼を連れてくるって言ってあるのに。相変わらずね」
芽依は呆れたようにため息をつく。
比「すみませんこれ。つまらないものですが」
比良坂、土産に持ってきたお菓子の箱を袋から取り出して佳寿衣に渡す。
母「あら、お気遣いいただいてすみません」
佳寿衣、比良坂の顔をジッと見る。
比「顔に何かついてます?」
佳寿衣はハッとする。
母「ごめんなさいね、芽依がお付き合いをしている人を連れてくるなんて初めてだから」
そう言われた比良坂は芽依の方を見る。
芽「三十歳にもなって彼氏の一人も連れてこないような親不孝な娘なのよ、私は」
不機嫌そうにこぼす芽依。
母「もう、芽依ったら、そんなこと言ってないでしょ」
比「俺は嬉しいですけどね」
比良坂、得意の愛想の良い笑顔を浮かべる。
二人はリビングのソファに座るよう促され、佳寿衣はお茶を入れにキッチンに行く。
比「苦手って言うだけあって、芽依さん機嫌が悪いね」
芽「……」
比「でもお母さんは穏やかで良い人って感じだけど?」
芽「……」
芽依の機嫌の悪さに徐々に不安になっていく比良坂。
「カチャッ」と音が鳴って玄関からリビングにつながるドアが開く。
初老で背の高い男性が姿を現す。
芽依の父・宏長:六十代前半。白髪交じりの髪に銀色の縁のメガネで、ポロシャツ。どこか芽依に似た少しだけキツめの顔。
父「ただいま。なんだ、もう帰っていたのか」
芽「おかえりなさい。お久しぶりです」
※〝シーン〟という効果音
お互いにムスッとした表情。
座った芽依を見下ろす宏長、目を合わせようとしない芽依。
二人を見て「拗らせてるな〜」という困った表情をする無言の比良坂。