最強退鬼師の寵愛花嫁

心護の説明に異論はなかったのか、クマは羽で頭をかきながら「うわー」とぼやいた、

「久々に出てきたからナマってたわー。まいっか。娘、面白そうだから手を貸してやるよ。――うわっ」

クマが言った途端、ザンッと刃が振り下ろされた。

「琴理様に恩を売るつもりですか? 阻止しましょう」

詩だった。冷徹な目でクマを見据えている。怜悧な眼差しに、琴理の背筋が冷えた。

「やり過ぎです。琴理様が引いてます」

やんわりと詩をたしなめた公一に、琴理は少し助けられた心地になる。

クマは羽をさっと振る。

「別に恩なんか売らねーよ。俺は楽しいことが好きなだけ。愉快にいられりゃそれでいいのさ」

「……どうします、若君」

詩はまだ怒りが収まらないのか、ぶすっとした顔で心護を見やった。

「そうだな……」

少し考える風に中空を見つめた心護が、すっとクマへ視線をやる。

そしてにこっと笑ったかと思うと、琴理の隣を離れ、がしっと小鳥の頭を掴んだ。

「!」

「な、何をするっ」

「琴理の影に潜んで付きまとうとか、お前ストーカーか?」

「いや別におれが望んだわけじゃねえんだけど――痛い痛い痛いっ」

「痛いです痛いです痛いですっ」

「え?」

「「「え?」」」

心護がぎゅうっとクマの頭を掴んだとき、何故かクマだけでなく琴理も悲鳴をあげた。

そして心護に続き、公一、詩、クマもきょとんと琴理を見た。うっすら涙を浮かべる琴理がいて。

「あー、やっちまったー」

「琴理!?」

ぼやくようなクマを投げ捨てた心護が慌てて琴理の隣に戻ると、琴理の締め付けられるような頭痛は収まった。

(え?)

「琴理、大丈夫か? 急にどうした」

「いえ……わたしも何がなんだか……」

「娘がおれを呼び出したことの代償だな」

机の上に舞い戻ったクマがふふんと言った。

< 29 / 88 >

この作品をシェア

pagetop